
絵画や立体、空間芸術、小説などさまざまな創作活動を繰り広げる前衛芸術家、草間彌生さん(96)の版画作品に焦点を当てた「草間彌生 版画の世界―反復と増殖―」が京都市京セラ美術館新館東山キューブで開催中だ。前期(~6月29日)と後期(7月1日~9月7日)で作品を全て入れ替え、計約330点を展示する。
2022年に草間さんの出身地の松本市美術館(長野県)で開催した展覧会の巡回展で、草間さんの版画作品の全貌に迫るほぼ初の展示となる。24年に鹿児島、今年は京都と名古屋で開催。初期作から00年代の作品までが並び、330点をそろえるのは松本を除くと京都会場のみ。
版画制作は1979年から始まり、以降、他の創作活動と並行して続けられた。網目や水玉、カボチャなどのおなじみのモチーフに加え、レモンスカッシュなど日常の風景、帽子や花など幼少期の思い出につながる題材など多様だ。松本市美術館の渋田見彰学芸員は「複雑で多岐にわたる草間さんの芸術活動のイメージを凝縮したのが版画作品」と解説する。草間さんの作品世界を読み解くヒントが詰まった展示内容といえる。
版画は刷り師との共同作業で、シルクスクリーンやリトグラフなど技法によって3人の決まった刷り師が担い、作家の息づかいを忠実に再現してきた。また14年制作の「富士山」をテーマにした一連の木版は、江戸時代からの伝統技術を受け継ぐアダチ版画研究所(東京都)からの依頼で実現。草間さんが描いた巨大な原画を基に制作された。空にちりばめられた1万4685個の水玉一つ一つを彫り師が手彫りしている。
一方、エッチングは草間さん自身が銅板に線を描いており、作家の手や心の動きがより直接的に感じ取れる。最後の展示室は近年の代表作「愛はとこしえ」シリーズ(04~07年)が展示室一面を飾る。大画面に人物の顔や目、植物などのモチーフが反復される様は圧巻だ。
2025年5月12日 毎日新聞・東京夕刊 掲載