
「青春を生きる」。傘寿を過ぎてなお、その言葉が自然に響く。安藤忠雄さん(83)が手がける建築プロジェクトは、今この瞬間も世界各地で進行中だ。故郷であり、活動の拠点でもある大阪で開催中の「安藤忠雄展 青春」では、半世紀以上に及ぶ仕事の全貌をさまざまな工夫で見せている。

暗い展示室に作られた祈りの空間。水の上に立つ十字架の向こうに、北の大地の美しい四季が映し出される。「光の教会」(大阪、1989年)とともに教会3部作をなす「水の教会」(88年)は、北海道占冠(しむかっぷ)村の平原に立つ。人工の湖に面して建てられた礼拝堂から水上の十字架を望む初期代表作の一つを、本展では展示室に実際に水を張り、原寸大での再現を試みている。
個人住宅から美術館をはじめとする文化施設まで、約60の建築プロジェクトを取り上げる。「水の教会」と並んで建築を体感する展示が、8K映像を用いた没入型のインスタレーションだ。天井高15㍍のキューブ型展示室に、「光の教会」▽「真駒内滝野霊園頭大仏」(札幌市、2015年)▽「ブルス・ドゥ・コメルス」(パリ、21年)――の映像を投影。代名詞であるコンクリート打ち放しの幾何学的造形はもちろん、自然を取り込み、歴史的建造物と共存する空間性など、安藤建築のエッセンスが疑似体験できる。
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会場は大阪の玄関口、JR大阪駅北側の再開発区域「グラングリーン大阪」内にある文化施設「VS.」。自身が監修し、昨年オープンした。地上に顔を出すのはエントランスホールなど二つのキューブだけで、約1400平方㍍の展示空間は地下に広がる。映像インスタレーションの2室に加えて二つの展示スペースがあり、「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」と題して、約230点の模型やドローイングが並ぶ。
17年に東京・国立新美術館で行われた大規模個展「挑戦」は、世界を巡回。海外での仕事が8割を占める現在も変わらず拠点を置く大阪では、「青春」を冠して開催する。米詩人サミュエル・ウルマンの言葉に託すのは、「100歳まで頑張りたい」との思いであり、「目標がある限り青春だと思って走れ」という同時代を生きる人々へのメッセージでもある。
映像を駆使した空間と好対照をなして目を引くのは、「ブルス・ドゥ・コメルス」の30分の1模型と、実現はしなかった「中之島プロジェクトⅡ」(大阪、88年)の全長10㍍に及ぶドローイングだ。どちらも「5人がかりで1年かかった」という。
「書くということすら忘れてコンピューターでやっている世界と、もう一つ違う世界があるのではないか」。ポケットからスマートフォンを取り出した安藤さんは、自らにも言い聞かせるように、こう語った。「皆さんも我々も、こんな妙なものを持って何でもわかると思っているが、これではわからない。もうちょっと心して建築をつくらなければならないと考えている」。「青春」展は7月21日まで。
2025年4月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載