菊畑茂久馬「ルーレット(ターゲット)」(1964年、福岡県立美術館蔵)=提供写真

【Topics】
「LINKS-菊畑茂久馬」 「九州派」スターの軌跡

文:渡辺亮一(毎日新聞記者)

美術

 ◇全国15館以上が参加 各地で所蔵展

 戦後日本を代表する前衛美術家、菊畑茂久馬(もくま)さん(1935~2020年)の没後5年に合わせて、全国の美術館が所蔵する菊畑作品を順次公開していくアートプロジェクト「LINKS-菊畑茂久馬」が展開中だ。来年3月まで、全国15以上の美術館をつなぐ。

 菊畑さんは57年に結成された前衛美術集団「九州派」が生んだ最大のスター。福岡で活動を続け、全国的な知名度を得た。代表作に、男女を表す2本の丸太に大量の5円玉を打ち付けた、反芸術的傾向の立体「奴隷系図(貨幣)」(61年)などがある。11年度に毎日芸術賞を受賞。作品は全国の主要美術館に所蔵されている。

■   ■

 今回のプロジェクトは、菊畑さんを顕彰する機運を盛り上げようと、一般社団法人「菊畑茂久馬美術青家協会(協会)」が企画した。菊畑さんの作品を一堂に集めた展覧会を催すのが理想だが、実現するには膨大な経費がかかる。そこで考えたのが、所蔵館に頼み、それぞれの館でコレクションを展示してもらう手法だ。これなら、所蔵館の負担は少なくて済む。先行例として、昨年、生誕100年を迎えた画家、芥川紗織(故人)の作品を全国の美術館が連携し、紹介したプロジェクトがある。

 元福岡市美術館学芸員で、インディペンデント・キュレーターの山口洋三さん(55)が協会の企画アドバイザーとなり、所蔵館(約20館)に協力を求めたところ、東京国立近代美術館、国立国際美術館(大阪)など15館(さらに3館が加わる見込み)が応じた。

 福岡県立美術館(福岡市)もそのうちの一つ。開催中の「コレクション展」(4月13日まで)では絵画、ブロンズのオブジェなど8点が並ぶ。中でも注目は約60年ぶりに福岡に帰ったミクストメディア「ルーレット(ターゲット)」(64年)。長方形の木枠の中に着色したボールやお面などの廃品を貼り付け、ルーレット盤の図柄を描く。本作は、65年に米国で開かれた「新しい日本の絵画と彫刻」展に出品された3点の「ルーレット」作品の一つ。残り2点はニューヨーク近代美術館(MoMA)と、ロックフェラー家を経て大阪中之島美術館が所蔵する。本作だけ長らく所在が不明だったが、約60年ぶりに見つかり、今年度、福岡県立美術館のコレクションに加わった。同館では初公開。米国で「日本のポップアートの先駆け」と評価されたこの一点と対面するだけでも、展覧会に足を運ぶ価値がある。

■   ■

 菊畑さんの作品数自体は多くないが、「ルーレット」シリーズ後の70年代は美術界から距離を置き、小型のオブジェ制作に明け暮れ、83年以降、「天動説」シリーズに代表される大作油彩画を発表し続けた表現の軌跡をたどることができる。

 福岡市美術館は「コレクションハイライト」展(4月30日まで)で、「ルーレット№1」(64年)を展示している。今後は広島市現代美術館、東京都現代美術館、青森県立美術館などで作品が展示される予定。詳細は公式ホームページ(https://links.kikuhata2025.art/)から。

2025年3月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする