タイル張りの気品あふれる学校建築から、都市開発を支えた土木遺構まで。「ハイカラ」なだけではない神戸の街の多様な近現代建築を一斉公開する「神戸モダン建築祭」が11月22~24日、開催される。それに先立ち16日からは、実行委メンバーで建築史家の笠原一人さんら専門家によるガイドツアーも始まる。実行委はクラウドファンディング(CF)で運営資金の一部を募っている。
昨年の初開催では神戸市中央区を中心とする31件が対象で、延べ2万5000人が訪れた。今年は灘区や兵庫区、さらには隣接する西宮市など阪神間までエリアを拡大する。1896年築の異人館「シュウエケ邸」、国内初の河川トンネル「湊川隧道(ずいどう)」など参加建築は約70件になる見通しだ。
ツアーにはCFのリターンとして特別に用意されたものもある。いずれも普段は一般公開されていない貴重な建築ばかりだ。例えば神戸女学院(西宮市)。米国人建築家ウィリアム・メレル・ボーリズが設計し、1930年代に完成した12棟が国の重要文化財に指定されている。同じ学校建築では、建築家・永田祐三の設計で80年代に完成した神戸松蔭女子学院大(灘区)もある。「中世イタリアの山岳都市のようなキャンパスが特徴」と笠原さんは言い、味わいのある茶色いタイルで統一された建物が山の中腹に広がる。
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また、今年は土木構造物も売りという。明治初期、国内初の鉄道トンネルが市内に造られるなど「実は神戸は土木の街」と笠原さん。60年代以降、神戸空港やポートアイランドといった人工島を造成するための土砂を運び、今も地中深くに眠る「須磨ベルトコンベヤトンネル」(総延長約15㌔)の一部見学ツアーもCFリターンの一つになっている。
建築祭は近年、各地で盛り上がりを見せている。関西では2014年から「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」が開催され、22年に京都でも始まった。今年5月には、東京で初めて開かれた。
神戸モダン建築祭実行委員長で、建築家の松原永季さんは、師である建築家・藤森照信さんの「建築とは記憶の器である」という言葉に触れ、「記憶が人間の根幹を成すならば、建築とそれが連なったまち並みは、私たちのアイデンティティーそのものを支えていると言えるでしょう。神戸が神戸としてあり続けるために、今年も建築祭の開催を目指します」とコメントしている。
CFは10月31日までで、目標金額は400万円。詳細と申し込みは専用ページ (https://motion-gallery.net/projects/kobe-kenchikusai2024)へ。
2024年9月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載