「建築・愉(たの)しむ」をコンセプトに掲げる、東京都江東区のギャラリーエークワッド。建築文化をはじめ、芸術や生活など私たちを取り巻く環境に広く目を向けて展示を企画してきた。今回、取りあげたのは「点字」だという。
「6つの点から広がる世界 点字にふれる」展は、「社会のダイバーシティを考える」シリーズの第2弾。知っているようで知らない点字を起点に、さまざまな「見え方」の先に広がる世界にいざなう。
会場の本棚にさまざまな書籍が並んでいる。点字を活用したものでは、点訳版小説や点字新聞『点字毎日』から、レシピや楽譜まで。東野圭吾さんの推理小説『容疑者Xの献身』は、活字版、点字版、「デイジー」(音声版)の3点を展示し、読んだり、触ったり、聞いたりして内容を確かめられる。
点字文化の発信地の一つ、東京・高田馬場にある日本点字図書館や付属施設の「ふれる博物館」の取り組みについても紹介している。同図書館と博物館を共催する「手と目でみる教材ライブラリー」所蔵の、葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のレリーフは、ダイナミックな波の動きを強弱をつけて表している。
併せて、後景にある富士山がなぜ小さいのか、遠近法が理解しづらい人のために、前景、中景、後景のいくつかの層に分けて半立体で表した模型もある。同博物館の伊藤宣真館長は「神奈川沖浪裏は新1000円札にも使われているほど有名。どんな絵なのか知っておくと、日常生活でも役立つのです」と説明する。
普段目で見ている晴眼者が、初めてこのレリーフや彫刻を触ったとき、どこまで感じ取ることができるだろうか。同展に来ていた全盲のバリアフリーアドバイザー、中山利恵子さんいわく「触るにも技術が必要」。盲学校時代は「(ものを)いっぱい触って、いっぱい壊してきた」といい、触って技術を高めながら理解してきたと振り返る。
街の外ではどうだろう。例えば、車椅子利用者にとっては歩道と車道の段差がないほうが使いやすいが、視覚障害がある人には段差はある程度大きいほうがいいという。そんななか点字ブロックはもちろん、聞こえる音や漂う香りなども頼りに街を歩き、それぞれが自分なりの地図を描いているという。
いずれも全盲の、写真家、美術鑑賞家の白鳥建二さんと美術家の光島貴之さんは、ギャラリー周辺を歩いて感じた風景を作品として表現した。白鳥さんは街を歩きながら撮影した疾走感あふれる写真をユニット「BOB ho−ho」の協力を得てインスタレーションとして展示。あえて破ったり、重ねたりして触っても楽しめるようにしたという。
企画した学芸員の徳平京さんは「中山さんから『触る技術』という言葉もありましたが、触ったほうが分かるようなことを、実は見落としているかもしれない。手で読む点字という文字を通して、触感から得られる世界の豊かさに触れられた気がします」と話していた。10月24日まで。
2024年8月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載