平安時代以来の信仰が息づく醍醐寺(京都市伏見区)の寺宝を集めた「開創1150年記念 醍醐寺 国宝展」が、大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。2022年2月にオープンした同館での古刹(こさつ)をテーマにした展覧会は初めて。近現代美術の展示を中心とするモダンな展示空間に、伝統的な仏像や仏画が並ぶ。
醍醐寺は874年に聖宝(しょうぼう)が開いた。山上の「上醍醐」とふもとの「下醍醐」で構成され、真言密教や修験道の重要な拠点として皇族や公家、武家など幅広い人たちに重視されてきた。豊臣秀吉が晩年に開いた「醍醐の花見」の舞台になったことでも知られる。
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展覧会は仏教美術に詳しい大阪市立美術館の内藤栄館長が監修し、奈良国立博物館が学術協力した。「せっかく近現代美術の美術館で開かれる展覧会。歴史的なことだけでなく、アートとしてどう見てもらえるかも考えた」と内藤さん。例えば会場入り口付近に並ぶ小さな4体の「薬師如来光背小七仏薬師像」(国宝)の展示は、これまでにない試みだという。醍醐天皇の願いで建てられた上醍醐薬師堂の本尊・薬師如来坐像(ざぞう)の光背についている「化仏(けぶつ)」たち。高さ176㌢の本尊の約10分の1とかわいらしいサイズで、化仏として注目されることは少ないが、取り外して単独でケースに入れると存在感がある。「本尊は平安前期らしい力強く量感に富んだ像で、小薬師像もそれに似て小さいながら力のこもった造形。間近で見られる貴重な機会になった」と力を込める。
また密教の拠点として、人々の願いに応えるための多彩な仏像や仏画が伝わっている。「大威徳(だいいとく)明王像」(重要文化財)は上醍醐の五大堂にまつられた創建当初の像。不動明王など5体の明王像があったが、たびたびの火災で唯一焼け残った貴重な像だ。「聖宝さん自身が発願し、没後すぐに完成している。聖宝さんの伝えたかった密教を感じることのできるお像」と内藤さん。密教の修法(すほう)で用いられることの多い仏画も多く並ぶ。
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終盤は桃山時代に光を当てる。1576年に座主となった義演(ぎえん)は二条家出身で、兄の二条昭実(あきざね)が秀吉に関白を譲るなど豊臣家と深い縁があった。応仁の乱や地震で荒廃した寺の復興に豊臣家の力が注がれたゆえんだ。「醍醐花見短冊」(重要文化財、後期展示)は1598年の「醍醐の花見」の参加者が詠んだ和歌を書き記したもので、金銀泥のきらびやかな装飾は当時の華やかな雰囲気を想像させ、寺の歴史の重層性を感じさせる。
醍醐寺の壁瀬宥雅(かべせゆうが)座主は「若い方は仏様を遠く感じているように感じる。本展で友達のような親しみを持っていただけたら」とほほ笑んだ。
前期展示は21日までで、24日から8月25日まで後期展示。月曜と23日休館(15日、8月12日は開館)。
2024年7月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載