現場で働く人の大半は女性なのに、トップは男性が務めている。ジェンダー平等が叫ばれて久しい今も、そういう職場は少なくない。美術館はその一つと言えるだろう。そんな中、公立美術館の3人の女性館長が集まり、美術館のこれからについて語り合う講演会とシンポジウムが開かれた。
参加したのは、国立新美術館(東京都)の逢坂恵理子さん、兵庫県立美術館の林洋子さん、姫路市立美術館(兵庫県)の不動美里さん。姫路市立美術館の開館40周年を記念したイベントで、11月18日に同市内で「変化の時代の美術館~100年後も市民とともに」と題して開催された。
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前半は逢坂さんが記念講演を行った。逢坂さんは最初に、明治期に民間のコレクションをベースに始まった、日本の美術館の歴史を紹介。1960年代に公立の美術館が増え始め、都道府県立から市町村立へ広がりを見せたことや、90年代に現代美術館が多く誕生したこと、2000年代には芸術祭が盛んになったことなどを解説した。
現在の公立美術館を取り巻く環境については、メディアと共催する大規模な企画展が岐路に立たされていることや、運営交付金をはじめ外部からの収入源が減少していることなどを説明。「美術館にとって大切な財産であるコレクションを生かし、新しいことを付加して魅力ある展覧会に仕立てる工夫がさらに必要になっている」と指摘した。地域の特性を生かしつつ世界にも開かれた「グローカル」な視点が求められているとして、「美術館の総合力が問われる時代になった」と述べた。
「数値で表現できない価値の大切さや、複眼的に世界を見ることを伝えることで、複雑な現代社会を生きる力を与えてくれる」。美術館が果たしている役割について、こう語った逢坂さん。「単純作業をAI(人工知能)が代替できる時代に、私たち人間は自分たちの人間性をどうやって確認していくのか。便利な社会に生きる私たちは自分の体を使うという部分では退化している。五感を使う美術館はその退化に気付かせ、とどめてくれる」とも指摘した。
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シンポジウムではまず、美術館におけるこの10年の変化について、それぞれが感じていることを紹介した。林さんは、美術館が地域とどう関わるかを問われるようになったことを挙げた。かつては東京からの巡回展などで「名品を鑑賞する場」だったが、今は「個性的な活動をすること」や「地域コミュニティーの核となること」が求められるようになった、と指摘。視覚障害者に鑑賞の機会を設ける展覧会が増えるなど、これまで美術館に来づらかった人たちとの向き合い方が変わってきていることも紹介した。不動さんは格差が拡大する中、親子での来館者が減っているとして、「本当にアートを必要としているところに行き届いていないことについて、どうしていけば良いのか、深い悩みがある」と明かした。
時代を経ても変わるべきではないことについても、意見が交わされた。不動さんが挙げたのは「鑑賞の自由を守ること」。逢坂さんは加えて、「美術館の自治」を守る重要性について指摘し、「運営が厳しい中で『自分たちで稼ぎなさい』と言われるが、非営利であり、公共性があることが非常に重要」と強調した。
林さんは、美術館の「蔵」としての機能を挙げ、「時代が経過していくことで、ケアにかかるお金は増えていく。大変なことだが、ますますやっていかなくてはいけない。芸術祭やアートマーケットとは違う、パーマネントの箱を持つ『蔵』としての美術館を守っていかなくてはいけない」と語った。
2023年12月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載