
◇川俣正さん「生活の中にアートのスパイス」
小さな違和感を覚えて振り返ると、街灯が傾いている。何本も固まって。道路を通る人々をのぞき込むように首を突き出しているものもあれば、あらぬ方向を向いているものもある。
サイトスペシフィックな作品で知られるパリ在住のアーティスト、川俣正さんは「なるべくとっぴなものじゃなく、みんながいつも見ているもののちょっとだけ違うものを作りたい」と語る。12本の街灯からなる「千鳥橋ライトポスト」は今春、大阪市此花区の正蓮寺川公園に設置された。公園を横切る道路脇に6本ずつ。役目を終え廃棄されたものを再利用した。
大阪・関西万博の開催地、夢洲(ゆめしま)やユニバーサル・スタジオ・ジャパンを擁する此花区だが、正蓮寺川公園は高度経済成長期の河川汚染を受け埋め立てられ、現在も整備が続く市民の公園だ。区制100周年を迎えた区が、公園に100以上のアート作品を設置するという「konohana permanentale 100+」を計画し、本格実施第1弾として、川俣さんの作品が作られた。
川俣さんは1980年代から、日常空間にアートを出現させる作品を世界各地で手がけてきた。当地の住民と協働するプロセスも重視することで知られ、今回は区の事業を受けた地元の工務店「POS建築観察設計研究所」や鉄工所などと共に制作した。
「公園の彫刻というと台座があって、その上にモニュメントがあって。でもそういうのを作っちゃうと誰も関わらない」と川俣さん。「100個の1個目だから『アート』や『作品』の幅を広げておけば、次からがやりやすくなると思った」と明かし、「とんでもない作品」を受け入れる許容度が地域にあるかどうかが今後の鍵だと指摘した。記念の講演会では、現地で作業中に道行く人から「無駄だ」と言われたエピソードも紹介。「アートってスパイス。なくても死なないし絶対視はしていない。でも生活の中にスパイスが利くと全然違うものになる」と語った。
2025年6月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載