意見を交わす選考委員。手前左から、石川直樹氏、大石芳野氏。画面はオンラインで参加した梯久美子氏。右手前は砂間裕之・毎日新聞社執行役員=毎日新聞東京本社で2022年1月31日、平野幸久撮影

 北島敬三さん(68)の写真集『UNTITLED RECORDS』(KULA)に決まった第41回(2022年)土門賞。1月末に東京・竹橋の毎日新聞東京本社で開かれた選考会=写真・平野幸久撮影=では、主に北島作品と「石川真生展:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」の2作について、白熱した議論が繰り広げられた。

 プロ、アマ問わず、ドキュメンタリーに軸足を置いた表現に贈られる。選考委員は、写真家の大石芳野さんと石川直樹さん、作家の梯久美子さん、砂間裕之・毎日新聞社執行役員が務めた。

 まず議題に上がったのは、初沢亜利『東京二〇二〇、二〇二一。』(徳間書店)▽北島作品▽石川展(沖縄県立博物館・美術館)▽船尾修『石が囁(ささや)く 国東半島に秘められた日本人の祈りの古層』(K2 Publications)▽佐々木郁夫『北の人びと Place People』(共同文化社)▽本山周平『日本・NIPPON 2010―2020』(蒼穹(そうきゅう)舎)。梯さんは北島、初沢作品、石川さんは石川真生作品、大石さんは北島、船尾、佐々木作品、砂間役員は佐々木、初沢、本山作品を推した。

 事務局の高橋勝視さん(毎日新聞出版)の司会の下、選考は石川作品と北島作品に絞られた。

 『UNTITLED RECORDS』は、東日本大震災の被災地を含む日本全国の風景を写したシリーズ。これまで写真集として発表してきた20作を収めたものだ。タイトル通り、一見どことも分からない無名の風景の記録を重ねた。

 梯さんは「全てを通して見ると、被災地ではない写真にも被災感とでも言うべきものが含まれている。時間を経たものが写っているが、歴史の積み重ねのない〝薄い風景〟。何とも言えない不在の感覚が迫ってきて圧倒的だ」と評した。大石さんも「表現の方法は私と全く違うが、日本の姿をみごとに表している。災害ニッポンであり、過疎化ニッポンという、今日本がどうなっていて、これからどうなっていくのかを暗示するようだ。何より写真がしっかりしている」と推した。

 石川真生展は、沖縄から沖縄を伝える作家の、47年のキャリアを総覧する展覧会。被写体との関係や、沖縄を軸足に置いたテーマなど一貫した姿勢が伝わるものだった。

 石川直樹さんは「真生さんは写真を撮ることが、(被写体から)見られることでもあると強く意識して向き合っている作家。人間の複雑さを丁寧に見て写真でつかみとっている。今までを総括的に振り返る大きな写真展と本で、賞に値する」と述べた。

 一方、沖縄の歴史を演じ手と共に表現した「大琉球写真絵巻」など近年の作品について、「コンセプトは分かるが、コンセプトを超えた写真になりえているか」(梯さん)、「あるテーマの下で演じてもらった写真は賞に合うのか」(砂間役員)との指摘もあった。

 これに対し、司会の高橋さんは「大琉球写真絵巻は被写体との共同作業であり、そのスタイルはこれまでの延長上にある」と説明。石川さんは「ただ演じてもらっているのではなく、歴史の一場面を(演じ手が)体でそしゃくしながら表現する、ドキュメンタリーフィクションだと言える。日本本土復帰50年の今年だからこそ評価したい」と語りかけた。

 北島作品については難解だ(高橋さん)という声もあったが、「写真を見慣れている人でないと分からないものではないと思う。何もない風景に内在しているものを感じることができる」(梯さん)と評価。最終的に北島作品が選ばれた。

 石川真生展は新型コロナウイルスが感染拡大するなか、那覇市で開催され、選考委員の大半が展示を鑑賞できなかった。「このままだと写真集の賞になってしまう」(石川さん)と危惧する声があったことも付記したい。

2022年3月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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