急峻な稜線を持つ「天下の険」といえば、箱根(神奈川県箱根町)だ。人気スポットである箱根湯本駅と強羅駅間(8・9㌔)は、小田原電気鉄道(現・小田急箱根)の路線として、1919(大正8)年に開通した。

両駅間の標高差は445㍍。景観を極力損なわないよう、最小半径30㍍の急カーブや24の橋梁、12のトンネルが山肌を縫うように設けられた。参考にしたのは、スイスの山岳鉄道だ。深い谷に架かる早川橋梁は、1888年に静岡県の天竜川に架けられた鉄橋の一部が再利用された。

車両は、車輪とレールの摩擦力(粘着力)を利用して走行する「粘着式鉄道」だ。街中を走る電車と同じ仕組みのため坂道は苦手。進行方向を入れ替えながらジグザグに登るスイッチバックを採用した。2007年、小田原駅―強羅駅間の全線が土木学会選奨土木遺産になった。
開通当時の車両を1950年代に改造したという「モハ1形」「モハ2形」の編成は、往時をしのばせる。
2025年7月13日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載