静寂の中、厳かな雰囲気に包まれる礼拝堂=山崎一輝撮影

【レトロの美】
阿漕教会 津市
和洋折衷、屋根には鬼瓦

文:山崎一輝(毎日新聞記者)

建築

 古くは伊勢神宮に海産物を納めるための漁場であった阿漕浦(あこぎうら)海岸。そこからほど近い住宅街に、日本基督教団阿漕教会の礼拝堂(津市)はたたずむ。外観は白色を基調とした洋風の木造建築ながら、屋根には十字架紋様の鬼瓦が施されるなど、和洋折衷が目に入る。建物に入る際はエントランスで靴を脱ぐ日本式が採用されている。

屋根には瓦が使用され、建物左下には階段の傾斜に合わせて設けられた窓が目を引く=山崎一輝撮影

 1909(明治42)年、米宣教師のアレクサンダー・ヘールが同市で伝道を始めた。ヘールは避暑で長野県軽井沢町を訪れたとき、浅間山の噴火に遭遇し息子を失った。この悲劇を契機に、12(大正元)年に同教会の礼拝堂などが建てられた。礼拝堂は、宗教建築などで有名なウィリアム・メレル・ボーリズが日本に持参した設計図を基に建築された。上部に空間を設けることで天井板が共鳴し、音がよく響く構造になっているという。

 戦時中、教会は海軍に接収された。激しい空襲に遭ったが、軍の消火活動で焼失を免れた。同市に唯一残った教会として、100年以上の歴史を今に伝えている。

礼拝堂の天井にある信仰の象徴「ダビデの星」=山崎一輝撮影

2025年3月16日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

シェアする