さまざまな色合いの壁紙が静寂の空間を彩る=尾籠章裕撮影

 JR・地下鉄の荻窪駅からほど近い、大田黒公園内に落ち着いた色合いの建物が残る。1933(昭和8)年完成の旧大田黒家住宅洋館、現在は同公園記念館(東京都杉並区)だ。日本の音楽評論の草分け的存在として知られる大田黒元雄が自身の仕事部屋として建てた。

レンガ色の壁の外観に和の瓦風情が調和している=尾籠章裕撮影

 木造2階建てで、もともとは大田黒の自宅の離れだった。外観はシンプルですっきりして見える。上部には勾配のある切り妻屋根に和風の瓦が用いられ、和洋折衷を感じさせる。1階の広い室内には、こだわりの調度品が当時のまま残る。菊や竜の木彫りが施された椅子と丸テーブルは、その手の込みように目を見張る。壁紙は淡い桃色や紫色で彩られ、外から差し込む光と相まって部屋中を優しさで包む。

菊の木彫りが施された椅子に日差しが注ぐ=尾籠章裕撮影

 天井はしっくい塗り、床は寄せ木張り。重厚な存在感を放つグランドピアノは1900年製のスタインウェイで、大田黒がロンドンから取り寄せたという。今も年に数回、コンサートが開かれ、美しい音色を響かせている。

 2016年、国の登録有形文化財となった。

2025年2月16日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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