東京都立井の頭公園を西へ少し歩くと、個性的な洋館が現れる。三鷹市山本有三記念館だ。「路傍の石」などで知られる作家、山本有三が居宅とし、創作活動に打ち込んだ。
1926(大正15)年ごろ、貿易商、清田龍之助の自宅として建てられた。建物は地下1階、地上2階建て。同じ建物にもかかわらず、外観は北側と南側で大きく異なる。玄関のある北側は大きな煙突が目を引き、基礎部分には大谷石が用いられた。2階は白壁に木の装飾が施されていて、左右非対称の傾斜屋根がどこか山小屋を思い出させる。
南側の外観は、開放感のあるテラス、2階のベランダを中心に左右対称の設計が落ち着きを与える。1階にはデザインの異なる三つの暖炉。玄関、室内の扉、窓の随所に尖頭(せんとう)アーチ形を取り入れ、外観だけでなく内部各所にも細かいこだわりを感じさせる。窓から外を見れば、開放感のある庭が広がる。
有三は一時疎開したものの、36年から約10年間、ここで過ごした。94年には市の有形文化財に指定されている。
2024年12月15日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載