美しいステンドグラスが備え付けられた洋館2階の娯楽=山崎一輝撮影

 良質な粘土が取れ、古くから陶磁器産業が栄えた愛知県。「文化のみち橦木(しゅもく)館」(名古屋市東区)は、名産地から海外への陶磁器輸出で財を成した井元為三郎の邸宅として、大正末期から昭和初期に建てられた。

 2階建ての洋館と平屋の和館、蔵や茶室が約2000平方㍍の敷地に並び、欧米など各国の建築技術やデザインが取り入れられている。

洋館と日本建築の和館が並ぶ文化のみち橦木館=山崎一輝撮影

 洋館は白と茶色の直線的なアールデコ建築。外国人バイヤーを招待して商談が行われ、当時珍しかった洋式のバスタブと便器が並ぶ化粧室も。ステンドグラスも張られ、アメリカン・アールデコをほうふつとさせるデザインで、「幸せの青い鳥」をモチーフにしたものもある。

当時は珍しい作りだった洋式のバスタブと便器が並ぶ洋館2階の化粧室=山崎一輝撮影

 和館には縁起物とされたコウモリを模した引き手を取り付けるなど、ぜいたくな細工を施した。一方で、子ども部屋ではへりのない琉球畳を使用するなど、機能性にも配慮している。

 戦時中、近隣では空襲によって多くの犠牲者が出たが、同館は戦火を逃れた。奇跡的に残った名建築は、約100年の記憶を今に伝えている。

2024年12月8日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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