存在感のある正面玄関の列柱

 かつて城下町として栄えた山口県岩国市。白壁の建物を見ながら歩を進めると、角張った6本の列柱と出合う。同市立博物館である「岩国徴古館」だ。完成は1945(昭和20)年春で、設計は早稲田大教授を務めた建築家、佐藤武夫。佐藤は同大の大隈講堂なども手掛けた。

 外観は黄色がかった風合いのため石造りのように見えるが、実はレンガ造り。というのは、表面のタイルには製鉄の際に溶鉱炉から出る「鉱滓(こうさい)」を使っているからだ。

 展示室に入ると、裾が広がったアーチが目を引く。同市の名所「錦帯橋」がモチーフで、設計者の佐藤が旧制岩国中に通学する際、毎日渡っていたからだという。

錦帯橋をモチーフにした館内を横切るアーチ

 館内は湾曲した壁を四角形に切り抜いた小窓を多く配し、白しっくいを使用していて、明るい雰囲気だ。丸い壁に沿ったらせん階段もあり、軽快な印象を与える。建設時は戦時中だったため電気をなるべく使わず、自然光が入りやすい構造にしたようだ。戦時の暗い影が差していることに驚く。98年、国の有形文化財に登録された。

館内に優しい光を注ぐ方形の採光部

2024年8月18日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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