多角形のポーチが特徴的な建物

 薩摩藩最後の藩主は、イギリスから紡績機械を輸入し、日本初の洋式紡績工場を造った。技術指導にも外国の力が必要と判断した薩摩藩は、イギリス人技師を招き、彼らの住居として鹿児島紡績所技師館(鹿児島市)を1867(慶応3)年に建てた。幕末期に、洋風が取り入れられた初期の建築で「異人館」と呼ばれた。

2階の窓からは鹿児島湾に浮かぶ桜島が見える

 建物周囲のベランダや日本の尺貫法による設計など和洋折衷の建築様式が特徴だ。正面の突き出した多角形のポーチが異国情緒を醸し出し、2階の窓からは鹿児島湾越しに噴煙を上げる桜島が望める。また、建設当時はドアの概念がなかったからなのか、ふすまの引き手と同じくらいの高さにドアノブがしつらえられており、現代のドアと比べると低さを感じる。

回廊に優しい光が差し込む

 82(明治15)年に鹿児島城跡に移築されたが、保存のために現在地に再移築。1962年に国の重要文化財に指定された。2015年には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の一つとして、世界文化遺産に登録された。

2022年3月6日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

シェアする