都会のにぎわいとは無縁の静穏な空間が広がる。グランドプリンスホテル新高輪の1階にある「メインバーあさま」(東京都港区)は、同ホテルとともに1982(昭和57)年にオープンした。建築家・村野藤吾が91歳で手がけた。村野は「小諸市立小山敬三美術館」(長野県)なども設計している。
「あさま」の名称は、入り口付近に掛けられた洋画家・小山敬三の巨大壁画「紅浅間」から。ソファは座面が低くデザインされているため、座ると上部空間がより広く感じられる。高さ5㍍の天井の照明は、鉱物の一種「雲母」をあしらった。テーブル、照明などの調度品も村野が手がけた。壁紙は中世の騎士の恋愛を描いた「トリスタン物語」が題材で、細部をじっくり眺めたくなる。カウンターは全長11㍍にも及び、丸みを帯びたフォルムが特徴。40年という年月の重みをしのばせる。
ソファやテーブル、カウンター、壁紙の色合いがハーモニーを奏で、その重厚さが安らぎを与えてくれる。名建築家のこだわりが今も色濃く残る。
2024年8月11日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載