昨今、日本の漆芸に対する国際的な注目度が上昇中である。イギリスのV&Aミュージアムでは「漆の今:現代日本の漆」展が開催中だ(2027年4月30日まで)。現代漆芸の広がりを紹介する同展覧会のオープニングセレモニーは、気鋭の若手から重要無形文化財保持者(人間国宝)まで、幅広い世代の、会派を超えた漆芸家たちと顔を合わせる貴重な機会ともなった。
工芸は、柳宗悦をはじめ「手仕事」の象徴のように語られることが多いが、柳が主張していた頃の「手仕事」と、昨今のそれとでは大きな違いがあることを、少なくとも工芸の専門家は認識しておくべきだろう。確かにかつての工芸制作は極めてアナログな手わざの集積であり、機械生産物を工業製品、手仕事を工芸作品という二極的な捉え方にもさほど無理はなかった。
しかし、現在の工芸制作では新素材や先端技術も大いに活用され、漆芸ではそれが顕著である。成形を含む乾漆をはじめ、蒔絵(まきえ)、螺鈿(らでん)、卵殻などのさまざまな加飾技法もあり、漆芸は時間のかかる「手仕事」の象徴のようだが、他の工芸同様「手仕事」の中身は大いに変容している。
例えば、3Dプリンターは今や美術系大学や産地の研修所にも普及している。その機能も、当初は積層造形の原理であったが、あらゆる角度から切削できる機材もある。またNCルーターという道具を使用すると、ごく薄い曲面の繊細な木の箱なども高精度で作ることができる。漆芸の世界では、乾漆で成形する代わりに、コンピューター制御のCNC加工で効率よく精度の高い木箱を作り、その上の塗りや装飾に時間を割く作家もいる。冒頭の展覧会にも出品している山村慎哉(1960年~)は代表的な作家で、螺鈿にもレーザーカッターを使用し、人の手では不可能な細かい螺鈿表現も開拓してきた。
60年代から乾漆の型や胎に使われてきた発泡スチロール系素材は既に漆芸界の常識で、今や粘土・石膏(せっこう)型を使う乾漆作家の方が少ない。更に、谷川美音(88年~)は乾漆とも異なる塗りの造形に取り組んでいる。彼女はドローイングを描いた後、その線描をもとにFRP板を電動工具で切り取り、色漆を塗って仕上げる。それはFRP故に可能な、薄く自由な曲線造形の漆芸作品である。
昨年「髹漆(きゅうしつ)」で人間国宝に認定された林暁(54年~)もCAD(コンピューターによる設計)や3Dプリンターを使って洗練された形態を作り、その後の塗りなどに時間をかける。伝統工芸さえも先端機材を用いる時代であり、手わざの使いどころは作家それぞれに強弱をつけているのである。
作家の工芸を私は「素材や技術に根ざした創造的な実材表現」と定義してきたが、「技術」の中身は時代とともに変化している。私が安易に「手仕事」という語を使わないのは、戦後の工芸制作の変容を見てきたからである。漆芸作品における手わざの活(い)かし方は作家それぞれであり、新素材、先端技術の採用を含めた各自の工夫もまた漆芸表現を拡(ひろ)げてきた。もちろん、どこまでを工芸の手わざと捉えるのかについても、我々は今後も注視していかねばならないだろう。
2026年7月14日 毎日新聞・東京朝刊 掲載