「中核施設」の入り口。左奥に見えるのが「GOTCHA!WELLNESS」=五十嵐太郎氏撮影

【評・建築】
輪島KABULET 「ごちゃまぜ」憩いの場

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 1年以上ぶりに能登半島を訪れた。まだ道路の修理は続いており、昨年2月に目撃した石川・輪島の朝市の焼け跡は、わずかな痕跡が残るだけになっている。一方、あちこちに応急仮設住宅が建設されていた。そうした住宅街で、地域のコミュニティー拠点をつくる「輪島KABULET」の活動は輝いて見える。

 実は2018年にオープンしていたものだが、震災後は福祉避難所、支援物資の受け入れ、被災者への温泉提供などに貢献していた。これは社会福祉法人の「佛子園」が運営し、金沢の「五井建築研究所」が設計したものである。感心したのは、街中において一連の施設が溶け込んでいることだった。すでに少子高齢化が進み、空き家や空き地が多いことを踏まえ、建て替えではなく、これらをリノベーションしつつ、接続しながら、居場所をつくっている。

 コンセプトは「ごちゃまぜ」の手法だという。中核施設は1916(大正5)年と91(平成3)年の住宅の増改築であり、1階に近隣住民が無料で使える温泉、食事どころ、2階に住民自治室、生活介護や放課後デイサービスが入る。空き地を挟んで、その隣、66年(昭和41)年の住宅を高齢者デイサービス施設に改修した。

 また通りを挟んだ向かいも、昭和の建物をスタジオやトレーニングマシンを備えた「GOTCHA!WELLNESS」(2018年)に改造している。すぐ近くには、59(昭和34)年の母屋をリノベーションしたママカフェとマッサージ店を併設した「Caf KABULET」(18年)もあり、現在は前面に震災後に立ち上げた「NOTO, NOT ALONE研究所」のトレーラーハウスを置く。一連の建築は輪島に多い板張りを使用したり、道路に対して開いたりすることで、街の集まる場所として機能していた。

 上記のプロジェクトを担当し、五井建築研究所から21年に独立した若手の建築ユニット「kymaキーマ」は、輪島市役所の執務室を最小限の介入によってリノベーションした「Cafe丹輪島」(22年)や、ログによる応急仮設住宅(24年)を数カ所で手がけた。また復興支援のプロジェクト「みんなの憩いの場」として、コミュニティーセンターを設計している。これらを知って、筆者は市立病院南側の、集まる場所としてウッドデッキを巡らせた仮設住宅地に足を運んだ。ログの仮設住宅は、3・11後の福島でも登場していたが、やはり軽量鉄骨のプレハブよりも雰囲気が良い。

ウッドデッキを巡らせた仮設住宅=五十嵐太郎氏撮影

2025年6月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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