個性的な柱が目を引くGroveの外観=中村絵氏撮影(御手洗龍建築設計事務所提供)

【評・建築】
埼玉・所沢「Grove」 柱がつくる都市の雑木林

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 埼玉県の所沢にて、新しいタイプの都市型ビルの可能性を提示する、Grove(2023年)を訪れた。設計した御手洗龍は、伊東豊雄建築設計事務所を経て独立し、トンネル状の空間が反復する埼玉・草加市立松原児童青少年交流センター「ミラトン」(22年)や長野・軽井沢の別荘の離れ「暖居」(24年)などを手がけ、注目を集めている建築家である。

 さて、7階建てのGroveは、間口は約9㍍、奥行きは約38㍍という細長い敷地にたち、複合的な用途をもつ。すなわち、1、2階は店舗やオフィス、3、4階は賃貸住宅、5、6階は施主の住戸、7階はその両親の住戸によって構成される。

 通常は容積率いっぱいに直方体のビルがつくられ、下から上まで同じような平面が窓を設けた外壁に囲まれるが、Groveがユニークなのは、赤茶けた鉄骨の柱梁ちゅうりょうによるフレームと、プラットフォームとしての床スラブの組み合わせを強調し、あちこちにヴォイド=空隙くうげきをちりばめた多孔質な建築になっていることだ。その姿は、個人的にSF映画「レディ・プレイヤー1」(18年)に登場した、積層された床に住戸群がランダムに配置された建築のイメージを思い起こさせる。

 最大の特徴は、長さや直径が異なる角柱と円柱が強烈な存在感をもつことだろう。実際、側面から眺めると、1階から7階まで柱が貫通していることが視認できる。この太い柱は、上層にいくに従い、本数が減っていくが、ときには部屋の中を唐突に貫通することによって、大黒柱のように、個性的な居場所を生みだす。また上下階の使用者が、同じ柱を共有していることも互いに想像させるだろう。

部屋の中を貫通する大きな柱=五十嵐太郎氏撮影

 設計者はこうしたキャラクターがある柱群を雑木林=Groveと見立てた。無機質なビルの風景が広がる中で、これだけが周辺に対して開かれた外部空間を抱えた建築であり、さまざまな方向から光や風が入る。

 もし、こうしたビルが増えると、都市の風景は大きく変わるだろう。一見、現場のようでもあり、未完成に見えるかもしれない。もしくは、新築なのに、すでにあらかじめリノベーションされたビルというふうにも感じられる。おそらく、その自由なあり方が、「レディ・プレイヤー1」の未来建築を連想させたのだろう。

2025年5月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする