ドバイのワンザビール。真ん中で横倒しになったタワーのように見えるのがザ・リンク©Hufton+Crow=日建設計提供

【評・建築】
中東の日建設計 高精度で独創的な造形

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 21世紀に入り、中東の都市では、アイコン建築と呼ばれるユニークな形態の高層ビルが増えている。これらを海外の大手事務所が手がける状況において、日建設計が国際コンペで勝ちとり、近年完成した二つのプロジェクトを見学した。アラブ首長国連邦のドバイのワンザビール(2023年)と、次回万博の開催地であるサウジアラビアの首都リヤドのタダウル・タワー(22年)である。

 ワンザビールは敷地が高架の道路で分断されていたことを逆手にとって、それぞれにタワー(305㍍のオフィス棟と235㍍のレジデンス棟)を配し、上空100㍍でザ・リンクと呼ばれる水平のボリュームでつなぐ。その長さは230㍍に及び、いわば横倒しになったタワーのように見え、しかも60㍍を超える片持(かたも)ち梁(ばり)で大きく張りだす。

 ザ・リンクはレストランなどの商業施設が入り、屋上にはプールを備えている。いずれもシンプルな直方体だが、ロシア構成主義をほうふつさせるダイナミックな組み合わせによって、頂部に変わった形態や装飾を加えることなく、ランドマーク的なインパクトをもたらした。

 またワンザビールは空港から中心街に入る手前に位置するため、都市のゲートのようであり、ビルが密集していないおかげで、遠くからでもさまざまな角度で視界に入る。

 タダウル・タワーは、ドバイの成功を意識して着手した経済特区に登場した。リヤドは碁盤目状の都市だが、このエリアだけは敷地割りが変則的であり、イスラム建築の幾何学を想起させる多面体がデザインコードになっている。ゆえに、多くのビルは細かく面を分節し、装飾的に処理した。

 一方、タダウル・タワーは多面体ではあるが、大きな面を設定し、全体として中層の長方形に近い平面から上層の五角形へと、フロアが変化していく。また斜めの壁や柱、磨かれた金属や石が特徴的であり、鏡面仕上げのエントランスは風景と照明を映し込むことで、CGで描かれたように見える。なお、上層の中心部には自然光が差し込む垂直の吹き抜けをもつ。

タダウル・タワーのエントランス。鏡面仕上げにより虚実が重なる情報空間のデザイン(アート:山本浩二)©Production Alef=日建設計提供

 二つのプロジェクトは中東において精度の高いデザインを実現すると同時に、アイコン建築に対してもほかとは違うアイデアを提示した。

2025年3月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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