修理して天井のルーバーが開閉できるようになり、明るくなった横浜美術館の館内=五十嵐太郎氏撮影

【評・建築】
横浜美術館リニューアル 明るく軟らかな空間に

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 2025年2月、「おかえり、ヨコハマ」展が始まり、リニューアルされた横浜美術館の全貌が明らかになった。建築としては大きな骨格の変更はないが、小さい什器(じゅうき)群によって巧みに空間を変容している。

 もともと横浜美術館は、まだ、みなとみらい地区にビルがなく、地下鉄も通っていないとき、丹下健三の設計で完成し、1989年の横浜博覧会にあわせて最初にお披露目となった。モダニズムの旗手としてデビューした丹下が、しばらく海外の仕事が増え、久しぶりに日本で登場した大型の公共建築である。

 時代はポストモダンに突入し、彼のデザインも石張りのクラシックな空間にシフトしており、後の東京都庁舎(90年)に連なる作品だった。明快なシンメトリーの軸をもち、力強い建築である。現在から考えると、バブル期にあたり、お金をかけることもできた。今回のリニューアル工事では、設備の更新や収蔵庫の増設、バリアフリー化のほか、吹き抜けのグランドギャラリーにエレベーターが設置され、その天井の開閉式ルーバーを修理し、館内が明るくなった。

 興味深いのは、乾久美子が小さいモノたちをちりばめることで、丹下の大きな空間を細かく分節化したことである。例えば、ポータブルなサイン看板、対話から生まれた各種のスツール、トレー台、チケットもぎり台、チラシシェルフ、間仕切り。大きさや形状はさまざまであり、全部で700以上も制作したという。単純に座れる場所が増えたのも良いが、丸みを帯びたものが多く、デザインがかわいらしい。これらが組み合わさって、館の内外のあちこちにキャラクターをもった居場所が生まれる。また状況にあわせて、簡単に移動させたり、組み替えたりすることも可能だ。

 主にピンク系の色なのは、石に埋め込まれた粒子から選ばれたものであり、空間に生気を与えている。ひとつひとつの単位は小さい。決して大きな身ぶりではないが、硬い美術館という印象は大きく変わった。丹下の建築を解きほぐし、人々のアクティビティーをうながしている。また乾は「おかえり、ヨコハマ」展の会場構成も担当し、直交座標系の空間に対し、斜めにピンク系の壁を挿入することで、やはり空間に動きを与えた。

ピンクを基調とした家具什器群が配置され、館内の印象も変わった=五十嵐太郎氏撮影

2025年2月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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