
年末にベトナムに拠点を置くスタジオ・アネッタイ(山田貴仁+犬童伸浩)が手がけた住宅「House in Ba Ria Vung Tau(ハウス・イン・バリア・ブンタウ)」(2023年)を見学した。昨年、彼らはこのプロジェクトによって、大阪で開催されたU35、すなわち35歳以下の若手建築家の展覧会において、伊東豊雄賞を受賞している。
この住宅はホーチミンの市内から車で2時間半近くの土地に建つ。したがって、必然的に地方の風景を眺めることになるが、屋根の妻面を強調した装飾的なファサードの細長い敷地の家並みが断続的にあらわれる。到着までの体験が加わることで、写真を見るだけではわからない、畑に囲まれた彼らの住宅の特殊性と同時に身体で感じる地域性がよくわかる。
矩形(くけい)の敷地は約1000平方㍍もあるが、求められたのは施主の母と兄が暮らす小さい家だった。他の家とはまるで違い、道路に対する正面性や装飾的な要素はなく、屋根もフラットである。鉄筋コンクリート造によるシンプルなフレームの平屋の建築で、室内面積は約50平方㍍で十分だった。熱帯の気候ゆえに、屋外空間を積極的に使えるからである。
実際、キッチンや食事の場は完全に外部で、ここに冷蔵庫を置く。リビングと寝室も大きなガラス戸をスライドすると、庭と一体化する。張り出したスチールの屋根の下は陰をつくり、滞在時に風が抜けると、さわやかな空間になった。興味深いのは、庭にスチールの柱をグリッド状に配置し、その上を建設現場の仮囲いに使われる工業膜材で覆っていること。つまり、屋外だが、大きな半建築的な空間が展開している。

スタジオ・アネッタイは、こうしたデザインを「インダストリアルバナキュラー」と呼ぶ。ローコストの厳しい条件のなかで、身近にある工業部材を活用しながら、地域の環境に適応する建築をつくること。日本の仕事ならば、優秀な施工業者が建築家の難しい要求を実現するだろう。しかし、ベトナムの地方は同じ状況ではないから、別の戦略が求められる。
ところで、山田と犬童は、日本で学んだベトナム人の建築家ヴォ・チョン・ギアの事務所の出身である。「House in Ba Ria Vung Tau」は、日本で培われた建築的思考とベトナムの環境が出合うことで誕生した。
2025年1月23日 毎日新聞・東京夕刊 掲載