階ごとに異なる表情の外観が積層された「niwa」。1階は地域の祭具倉庫とレストランになっている=五十嵐太郎氏撮影

【評・建築】
地域に根差した建築 niwaと大森ロッヂ
緑が織りなす街の魅力

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 東京・蒲田に地域の活動拠点「niwa」が誕生した。これまでのアートも絡めた周辺の街づくりから派生したプロジェクトであり、私企業の敷地に建てられたものである。建築家の古谷俊一に対し、最初に要請された用途は祭具倉庫であり、コンクリート造の1階正面の中央という良い場所に設けられた。その背後に商業用の空間も備えるが、屋外階段を上ると、緑に包まれた2階は風が抜ける路地のようなアジア的な空間をもち、両側に店舗と倉庫のボリュームを置く。さらに階段を上り、3階に着くと、三角屋根をもつ鉄骨造による軽やかなペントハウス(事務所)がのる。小さい建築ながらも、階ごとに異なる表情の外観が積層された全体のファサードは印象的だ。また植物が巻きつくような屋外のテキスタイルデザインは、安東陽子によるもの。

 ここからほど近い大森駅の周辺にも、古谷が手がけたいくつかの建築が集中して建つ。まず自邸兼事務所の「インターバルハウス」(2019年)は、住宅の密集地域において2階から上の平面を45度に振ることで、室内において周囲からの圧迫感をなくすような効果を生みだす。また彼が『みどりの空間学』(22年)という本も出版しているだけあって、各階は実に多様な植栽に彩られていた。道路を挟んで向かいの店舗付きの住宅、「運ぶ家」(15年)も、自邸と同じく2階に開放的なテラスを備え、双子の建築が並んでいるかのようだ。また徒歩で1分程度の場所には、塀をとり除き、既存住宅をガラス張りのインナーガーデンで包むことで、街の角地を開放するリノベーション、「笑門の家」(22年)がある。

古谷俊一邸兼事務所の「インターバルハウス」。こだわりの植栽が美しい=五十嵐太郎氏撮影

 なお、これらの建築は、シリーズとして大森ロッヂの名前を冠している。それは、建築事務所「ブルースタジオ」などが昭和の木賃長屋群を改造した大森ロッヂ(11年)が先行して完成しており、これに隣接し、エリアの導入となるかたちで、古谷の建築が位置づけられているからだ。つまり、一連のプロジェクトは、駅近くの便利な敷地だが、マンションを開発せず、建築家が入り、複数の住宅に関わり、庭の手入れを行うことで、魅力的な街並みを形成している。

2024年10月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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