藤本壮介が構想した大阪・関西万博会場の大屋根「リング」=大西岳彦撮影

【評・建築】
大阪・関西万博の会場 ど迫力、自然素材を多用

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 10月中旬に、来年開催される大阪・関西万博の建設現場を見学する機会を得た。会場デザインプロデューサーの藤本壮介が構想した大屋根リングは、遠くからも見え、まるで高架の道路のように出現する。これに近づくと、高さ12~20㍍の柱が並ぶ、ど迫力の空間が出迎える。世界最大級の木造建築であり、木造の大型化に出遅れた日本にとっては重要なプロジェクトになるだろう。建設はエリアごとに異なる大手ゼネコンが担当し、細部や仕上げの違いも比較できるのが興味深い。屋根に上って部分的に歩いたが、1周約2㌔のリングは、高さの変化や傾斜、緑地などがあり、会場の全容を見渡せるほか、空や海を望む特別な場所だった。

 パビリオン群は建設中だったが、完成が近いものも見受けられた。2005年の愛知万博は、基本的にユニット空間を提供する方式を採用し、ユニークな造形の建築はわずかだったが、今回は有名な建築家が参加し、にぎやかな雰囲気である。例えば、伊東豊雄による金色の丸屋根をもつ大催事場、平田晃久の斜めに延びる空中デッキを備えた小催事場。永山祐子は女性館とパナソニック館を担当し、ほぼ完成していたが、前者はドバイ万博で彼女が設計した日本館のファサードを再利用している。前の万博で使われた建材が、次の万博でリサイクルされるのは初のケースだろう。愛知万博のときは会場変更に伴い降板した隈研吾は、茅葺(かやぶ)き屋根がある小山薫堂館のほか、カタールやポルトガルなどのパビリオンも担当している。建築家ユニット「SANAA」による、森の上に白い格子状の天蓋(てんがい)が浮かぶ宮田裕章館は、天井や壁もない開放的な空間だ。設計事務所SUOの河瀬直美館は、木造の廃校を移築し、組み合わせている。

永山祐子が担当したパナソニックグループのパビリオン「ノモの国」=妹尾直道撮影

 ほかにノーマン・フォスター、高松伸、坂茂らもパビリオンを手がけている。大御所だけではない。公募で選ばれた若手20組による関連施設も注目すべきプロジェクトである。例えば、ナノメートルアーキテクチャーのサテライトスタジオは、行き場がなくなった木を積み上げた柱をもつ。環境配慮を意識した愛知万博も重視していたリユースの視点は、今回も継承しているが、全体として木や石などの自然素材を積極的に使う姿勢が、大阪・関西万博の大きな特徴である。

2024年11月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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