ハラカドの屋上庭園からオモカドを見る=五十嵐太郎氏撮影

【評・建築】
平田晃久 ハラカドと個展
進化する「からまりしろ」

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 今春、東京の神宮前交差点に面した新しい文化の創造拠点としての商業施設、東急プラザ原宿「ハラカド」がオープンした。設計は日建設計だが、デザインの要となる外装と屋上は平田晃久が担当している。三角形や四角形、あるいは凸凹やフラット面のガラスを複雑に組み合わせながら、うねる多面体のファサードをもち、有機体のような印象を与えた。また上層階の屋外は気持ち良い階段状のオープンスペースを提供している。

 特筆すべきは、十字路を挟んで対面に位置する、中村拓志設計の東急プラザ表参道「オモカド」(2012年)と向きあうことで、都市に立体的な関係をもたらし、互いに見る/見られるという相乗効果を生みだしていること。二つの角地を活用し、単体の建築ではなしえない体験は、都市空間を楽しくさせるだろう。

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 現在、さらなる活躍が期待される平田晃久の個展「人間の波打ちぎわ」が、東京・練馬区立美術館で開催されている(9月23日まで)。全体は三つのパートから構成されており、最初の部屋は、彼の建築思想として有名な「からまりしろ」の概念を紹介していた。すなわち、空間が明快に分節されるのではなく、領域が重なり、絡まりあうものだが、初期の作品や横浜トリエンナーレ2008の三角屋根が分裂したインフォメーションセンター「イエノイエ」などの模型が並ぶ。

 続く第2の部屋では、群馬県の太田市美術館・図書館(17年)や新潟県の小千谷市ひと・まち・文化共創拠点(24年9月開館予定)など、近作や現在進行形のプロジェクトの設計プロセスを詳細に示す。興味深いのは、市民参加のワークショップやAI(人工知能)を利用した集合知を導入したデザインの手法である。練馬区立美術館と図書館の新しい関係を試みる建て替えのプロジェクトも、多数のスタディ模型とともに紹介されていた。

「平田晃久-人間の波打ちぎわ」の展示風景。練馬区立美術館と図書館の建て替えプロジェクトのスタディ模型などが紹介されている=五十嵐太郎氏撮影

 そして最後の部屋では、彼が人間だけの建築に限定されるのではなく、時空を超える世界観を獲得していることが理解できる。実際、ピアノの音が部屋を飛び越え、あちこちから聴こえることや、全体の空間をつなぐ吹き抜けの大型インスタレーションも、平田の建築思想を効果的に伝えていた。

2024年8月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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