大阪中之島美術館の外観

【評・建築】遠藤克彦 大阪中之島美術館都心部の巨大展示空間

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 準備室が設置されてから32年、ついに2月に大阪中之島美術館(大阪市)がオープンした。パリやニューヨークは都心に巨大な美術館が存在するが、日本の大都市でもようやくそうした建築が出現したという意味で画期的だろう。

 設計したのは2017年のコンペで、巨匠や大手組織を破って、最優秀に選ばれた遠藤克彦である。最大の特徴は、当初の提案通りに実現した。まず、新しいランドマークとして黒い直方体が浮かぶ。隣接する国立国際美術館(04年)がほぼ全体を地下に埋めたのとは対照的だろう。そして直方体の内部を、「パッサージュ(遊歩空間)」と呼ぶ複数の空隙(くうげき)のボリュームによってくり抜いたこと。遠藤によれば、さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館をめざしたという。

■  ■

 なるほど、大きな黒い塊の内部に展開する5層の吹き抜けは、異なる向きに長くて黒いエスカレーター群や階段が配され、ダイナミックな人の動きが一望できる。シンプルな外観に対し、迷宮的な複雑な空間にも見えるが、実は一筆書きの動線になっており、行き先がわかりにくいということはない。

高い吹き抜けがある館内

 外からは黒い壁が圧倒的な存在感だが、いったん内部に入ると、むしろ外がよく見えることに驚かされるだろう。持ち上げられた芝生広場から続く、2階は3面がガラス張り、そして4階は東西、5階は南北にパッサージュが貫き、各階の両端部は大きな開口を設けているので、中之島周辺の都市風景を楽しむことができる。室内はメタリックなルーバー材で覆い、むやみに明るいわけでもないことから、全体として大人っぽい艶やかさを感じるデザインだ。

■  ■

 さて、同館の収集方針は美術だけでなく、近現代のデザインも対象としている。オープニングのコレクション展でも建築家やデザイナーによる家具が数多く出品され、ラストは倉俣史朗の作品群なので見逃せない。また、このエリアには、安藤忠雄による「こども本の森 中之島」(20年)が登場し、数多くの文化施設が連携するクリエイティブアイランド中之島のプロジェクトも始まっている。大阪の中州が、ベルリンの博物館島のように、盛り上がろうとしているのだ。

2022年2月16日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする