川瀬巴水「東京二十景 芝増上寺」大正14(1925)年=提供写真

【展覧会】
特別展「THE新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦」
浮世絵の美 復興

文:清田幸枝(北九州市立美術館学芸員)

日本美術

 ◇北九州市立美術館 12日開幕

 明治以降、衰退の一途をたどっていた浮世絵木版画の復興を目指した版元・渡邊庄三郎(1885~1962年)の足跡を、残存数が少ない貴重な初摺(しょず)り約180点でたどる特別展「THE新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦」が12日、北九州市立美術館で開幕する。

 庄三郎は衰退していく浮世絵の状況を憂い、伝統的な浮世絵の制作手法を踏襲しつつ、西洋の写実表現を取り入れ、高い芸術性を意識した「新版画」を提唱、版元として支え続け、昭和初期の「新版画ムーブメント」の火付け役となった。

 庄三郎の創意工夫と審美眼、「新版画」の魅力、本展の見どころについて、同館の清田幸枝学芸員に寄稿してもらった。

 ◆学芸員 見どころ紹介

 明治35(1902)年、渡邊庄三郎は17歳で国内を代表する浮世絵商・小林文七の商店横浜支店に勤め、浮世絵木版画や古美術の輸出、外国人への販売を行うかたわら、浮世絵木版画の真贋(しんがん)の見極め方、彫りや摺(す)りの技術を学びます。

 その後独立し、明治42(1909)年に東京・京橋に渡邊版画店(現在の渡邊木版美術画舗)を構え、浮世絵木版画の研究や販売を始めました。

 当時、浮世絵木版画は海外からの写真や新しい印刷技術によって、衰退の一途をたどっていました。一方で、ジャポニスムが流行する欧米での浮世絵木版画の需要は高く、良質な浮世絵が国外へ持ち出されたことから、質の劣る複製浮世絵や贋作が国内で出回るようになりました。庄三郎はこの状況を憂い、「浮世絵の伝統的技術を継承し、芸術性の高い現代の新しい木版画」の制作を志します。

 大正4(1915)年、庄三郎は日本に滞在していたオーストリア人画家フリッツ・カペラリと最初の新版画の制作を試み、さらには橋口五葉とともに日本人画家による新版画第一作となる「浴場の女」を完成させます。その後も新進気鋭の若手画家たちと交流を持つようになり、日本画家の鏑木清方門下生である伊東深水、川瀬巴水(はすい)、また日本画で役者絵を描いてきた山村耕花(豊成)、名取春仙らを絵師として迎え、多くの新版画を生み出します。

フリッツ・カペラリ「鏡の前の女」大正4(1915)年=提供写真
山村耕花「七代目松本幸四郎の関守関兵衛」大正8(1919)年=提供写真

 ◇高い芸術性追求

 新版画では、伝統的な絵師、彫師(ほりし)、摺師(すりし)による分業体制をとりながらも、庄三郎は新版画を単なる浮世絵木版画の再現ではない、高品質で高い芸術性をもった高級版画として捉えていました。重ね摺りでは、1作品につき浮世絵木版画のおよそ2倍以上となる、30~40回も色を重ね、深い色合いや絶妙なグラデーションを生み出しました。和紙は頑丈で厚みのある高級紙、岩野市兵衛の生漉奉書(きずきほうしょ)紙(手すき和紙)を使用。顔料は浮世絵木版画にも使われていた植物性染料以外に、耐光性が高く発色の優れた鉱物性顔料を使用するなど、新しい素材も積極的に取り入れました。「空摺り」など伝統的な技術に加え、摺り跡をあえて残す「ざら摺り」といった庄三郎独自の技を用いるなど、新しい芸術としての木版画を次々と世に生み出してきました。

 本展では、この「新版画」の精神を今もなお受け継ぐ渡邊木版美術画舗の全面的なご協力のもと、残存数が少ない貴重な初摺りの渡邊版が一堂に会します。この機会にぜひ会場へお越しください。

※作品はすべて渡邊木版美術画舗版、渡邊木版美術画舗蔵

小早川清「舞踏」昭和9(1934)年=提供写真
小原祥邨「山葡萄に四十雀」昭和初期=提供写真

 ■イベント開催

 ◇記念講演会「新版画の誕生とその魅力」
12日(土)11時(約90分)
講師は庄三郎の孫で、渡邊木版美術画舗 代表取締役の渡邊章一郎氏。
 ※申し込み不要、聴講無料

 ◇学芸員によるギャラリートーク
20日(日)、10月17日(土)14時(約30分)
 ※申し込み不要、本展観覧料が必要

 ◇新版画の「摺り」(実演と実況解説)
27日(日)11時(約90分)
渡邊版画店専属摺師の林勇介氏による摺りの実演と渡邊章一郎氏の解説。
 ※申し込み不要、聴講無料

 ◇着物を着て美術館を楽しもう
会期中に和装(着物など)でご来場いただいた方は当日観覧料を500円割り引きます。
 ※前売り券は対象外

 ◇美術館で落語を楽しもう
10月24日(土)①15時~②18時~(約60分)
出演は北九州市出身で林家木久扇一門の真打ち、林家きく麿。
 ※申し込み不要、聴講無料
 ※20時まで夜間開館(入館は19時半まで)

INFORMATION

<会 期>
 12日(土)~11月8日(日)
 ※祝日を除く月曜と24日(木)、10月13日(火)は休館
 開館は9時半~17時半(入館は17時まで)
<会 場>
 北九州市立美術館(本館)(戸畑区西鞘ケ谷町21の1、093・882・7777)
<観覧料>
 一般1500(1200)円、高大生1100(800)円、小中生900(600)円
 ※かっこ内は前売りおよび20人以上の団体料金

主  催 新版画展実行委員会(北九州市立美術館、毎日新聞社、読売新聞社、TVQ九州放送)
後  援 九州旅客鉄道、西日本鉄道、北九州モノレール、筑豊電気鉄道
特別協力 渡邊木版美術画舗
企画協力 アートワン

2026年9月11日 毎日新聞・西部朝刊 掲載

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