「幻化」1979年、SOMPO美術館=提供写真

 ◇11日から、東京で27年ぶり

 「開館50周年記念 山口華楊展」が11日から、東京都新宿区のSOMPO美術館で始まる。日本画家、山口華楊(1899~1984年)の初期から晩年までの代表作がそろう、東京では27年ぶりの回顧展だ。本展の構成や見どころを、古舘遼・同館学芸員が解説する。

 ◇画業の集大成、ここに

 本年、SOMPO美術館は開館50周年を迎えた。その一環として、日本画家・山口華楊の個展を開催する。

 華楊は、京都の友禅染職人の家に生まれた。幼いころから美術になじみがあり、1912年、西村五雲(1877~1938年)に入門。厳しい教えのもと、17歳で文展に初入選を果たした。本展は、五雲に入門した12歳から84歳で没するまでの約70年に及ぶ画業をたどる。

「犢(こうし)」1941年、京都市立芸術大学芸術資料館=提供写真

「日向」1949年、京都国立近代美術館=提供写真

「凝視」1962年、京都市立格致小学校旧蔵(京都市学校歴史博物館管理)=提供写真

 動物画家として名高い華楊の類いまれなる技術と構想を下支えしたのは、写生を基本とする姿勢であった。五雲による厳しい教えのたまものであり、この姿勢を終生崩すことはなかった。

 必ず実際の動物と向き合い、膨大なスケッチを積み重ね、本画に取り組む。それゆえ、納得がいかずに途方もない試行錯誤を重ね、画題にふさわしい動物を求めて各地を探し回るなど、苦心譚(たん)には事欠かない。「絵がかきたうて」(日本経済新聞社、1984年)には、その生涯と制作にかんする豊富なエピソードが凝縮されている。

「葉桜」1921年、SOMPO美術館=提供写真

 たとえば、SOMPO美術館が収蔵する「葉桜」(1921年)においては、桜の樹のもとにはう蛇の形がなかなか決まらなかったのだという。知り合いのつてをたどっても見つからず途方に暮れたところへ、下宿先の近所で偶然見つけた蛇をつかまえて写生することにより完成した。画壇の重鎮である竹内栖鳳(1864~1942年)にも褒められたと伝わる。

 五雲から受けた影響として、動物を飼うことも非常に重要であった。五雲は子牛を描くために、農民を雇って子牛を飼った。そして、華楊にとっては蛇を探し回った記憶も要因としてあるだろう。華楊はさまざまな動物を飼い、画題とした。

「白露」1974年、京都国立近代美術館=提供写真

「秋晴」1976年、北澤美術館(C)Kitazawa Museum of Art=提供写真

 ◇粘土でポーズ試案

 そして、華楊は制作の素材として写真をほとんど使用しなかった。代わりに活用したのは粘土である。膨大なスケッチを基礎に、粘土で模型を作り、ポーズや向きを変えながらさまざまに試した。こどものころ、図画工作が得意で粘土遊びをよくしていた記憶も源泉にある。実際の動物は、思うようなポーズを都合よく取ってはくれない。いたって合理的な考えから編み出された手法であり、そうした観点から作品と向き合ってみると興味深い。

 華楊の作品には、極限まで洗練された気品がある。晩年好んで画題としたのがキツネであった。華楊によれば、キツネは人を化かす狡猾(こうかつ)な動物ではなく、気品のある知的な存在であった。その姿を正確にとらえるために、シンプルな造形を追求した。写生を基本とする画業の集大成がここにあり、その精神は現在も、晨鳥社(しんちょうしゃ)をはじめとする場で受け継がれている。

 京都画壇を語るうえで、その名を欠かすことのできない華楊だが、東京での個展は99年に銀座松屋などで開催された生誕100年展を最後に開かれてこなかった。本展は、華楊の画業を通覧する27年ぶりの回顧展となる。当館のみの開催で、巡回しないので、ぜひこの機会を逃さずにご覧いただきたい。(寄稿)

 ◇多彩なグッズ販売

 ステッカー=写真、550円(税込み)=など、オリジナルグッズを会場併設のショップで販売します。

INFORMATION

<会 期> 7月11日(土)~8月30日(日)。月曜(7月20日は開館)、7月21日(火)休館。
      入場は午前10時~午後5時半。金曜日は午後7時半まで
<会 場> SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1、新宿駅下車)
<入館料> 一般1600円、25歳以下1100円、高校生以下無料。
      チケットのオンライン購入はhttps://www.e-tix.jp/yamaguchikayo/
      からアクセス。
<問い合わせ>ハローダイヤル(050・5541・8600)
主催    毎日新聞社、SOMPO美術館
特別協賛  SOMPOホールディングス
特別協力  損保ジャパン
後援    新宿区、TOKYO MX

2026年7月10日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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