インドネシア・バリ島を舞台にした幻想的で神秘性にあふれた作風で知られる日本画家、井手康人さん(63)の古里・北九州市での初めての大規模個展「井手康人展-共鳴する祈り」が11日、北九州市立美術館で開幕する。日本美術院が主催する院展の受賞作など大作を中心に約25点を展覧、その唯一無二の画境に迫る。また、井手さんは長年にわたり、美術教育の普及へも精力的に取り組んでおり、今回も会期前、会期中に学校や美術館で日本画のワークショップを実施、その完成作品も同館で紹介する。井手さんの作品の魅力、展覧会の見どころについて河村朱音学芸員に寄稿してもらった。
女性の姿を中心に淡い色彩が広がり、全体的に柔らかな印象ですが、細部に目を凝らすと、画面を埋め尽くすように動植物が緻密かつ装飾的に描かれています。作品の舞台となっているのは、日本の南西に位置し、インドネシアに属する島のひとつ、バリ島です。
1994年に初めてバリ島を訪れた井手康人さんは、美しい自然とその土地の風土や文化に、幼い頃の記憶にある日本の原風景を重ね、創作のインスピレーションを求めて、長年にわたって同地の取材を続けてきました。
世界的なリゾート地としても知られるバリは、長い歴史の上に独自の文化を育む、インドネシアの中でも特異な島です。インドネシア人の約9割はイスラム教徒ですが、バリの人々の多くは、バリ・ヒンズー教を信仰し、日常の暮らしの中で、ごく自然に宗教儀礼や祭りごとを行っています。神事などでは欠かせない要素となるバリの伝統舞踊は、音楽と踊り、ともに高い芸術性を誇ります。
井手さんは、ある有名な楽団でレゴン(叙事舞踊)を踊るひとりの少女に出会ったことをきっかけに、彼女をモデルにした数々の大作を手がけてきました。神秘的なバリ・ヒンズー教の儀式に、禅や仏教などの思想が重ねられた幻想的な作風が確立し、作品の評価も高まっていきました。



2014年、日本を代表する日本画の美術団体である日本美術院の正会員(同人(どうにん))に推挙されると、井手さんは決意を新たに、バリの神話に登場する神様を主題とした、幅4㍍に迫る大画面に取り組むようになります。神様の姿は、これまでと同じ踊り子の女性がモデルですが、その姿は一層、神々しい崇高さを帯びるようになりました。しかし間もなく、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響によりバリ島での取材が困難となり、日本へと目を向けた井手さんが新たな画題としたのは、日本の象徴として知られる富士山でした。

本展では、バリの神々を描いた最近作を中心に、初期から近年の富士シリーズまで、三つの章から作品世界の魅力に迫ります。また、井手さんには、創作活動のほかに、美術教育への熱心な取り組みがあります。各地での出前授業など精力的な普及活動の一端として、井手さんと共同研究者による教育普及プログラムを事前に実施し、その成果物を併せて公開します。
■関連イベント
◇井手康人さんによるギャラリートーク
11日(土)、8月22日(土)、同23日(日)各日11時~(約30分)
※申し込み不要、本展観覧料が必要。
◇鼎談(ていだん)「子どもの美術と未来」
美術教育の未来について、井手康人さん、愛知県立大准教授の藤原智也さん、小学校教諭の秋山道広さんが語り合います。
19日(日)13時半~(約2時間)。13時開場・受け付け。
◇キッズデー!
8月10日(月)
この日は子どもが主役。展示室での泣き声もおしゃべりも大丈夫です。
◇キッズデー・ミュージアムコンサート
声楽家、大西ゆかさん(ソプラノ)のコンサート。ピアノは西尾麻衣子さん。
8月10日(月)14時~
※参加無料、申し込みも不要。
◇井手康人さんによる親子で日本画ワークショップ
8月22日(土)、同23日(日)各日14時~(約2時間)
※参加無料、美術館ホームページからの事前申し込みが必要。
■人物略歴
◇井手康人(いで・やすと)さん
1962年、北九州市小倉北区生まれ。福岡県立戸畑高を経て東京芸術大へ進み、故平山郁夫に師事。在学中に院展初入選。2020年の院展では「神々の視座」で最高賞の内閣総理大臣賞を受賞。愛知県立芸術大教授。岡山県瀬戸内市在住。
INFORMATION
井手康人展-共鳴する祈り
会期 11日(土)~8月30日(日)
※月曜休館。ただし、7月20日、8月10日は開館し、7月21日は休館
会場 北九州市立美術館(本館)
戸畑区西鞘ケ谷町21の1、093・882・7777
観覧料 一般1500(1200)円、高大生1100(800)円、小中生900(600)円
※かっこ内は前売りおよび20人以上の団体料金
主催 井手康人展実行委員会(北九州市立美術館、毎日新聞社)
後援 九州旅客鉄道、西日本鉄道、北九州モノレール、筑豊電気鉄道
特別協賛 Aimowl
協賛 極東ファディ
2026年7月10日 毎日新聞・西部朝刊 掲載