歌川広重「東海道五拾三次之内 亀山 雪晴」=提供写真

 ◇見どころ 摺師の目線で

 京都文化博物館(京都市中京区)で開催している特別展「原安三郎コレクション 北斎×広重」の後期展示が19日、始まった。ほぼ全ての作品が前期から入れ替わっている。葛飾北斎の「冨嶽(ふがく)三十六景」や歌川広重の「東海道五拾三次之内」など人気シリーズを保存状態の良い摺(す)りで、そろいで見られる貴重な機会だ。後期展示の魅力を佐藤木版画工房(同市東山区)の平井恭子さんに、摺師ならではの視点で語ってもらった。

摺りの作業をする平井恭子さん=京都市東山区で、大西岳彦撮影

 ◇空摺り 和紙に凹凸 細かな表現

 実業家・原安三郎氏(1884~1982年)の浮世絵コレクションの特長は、あまたある摺りの中から、より優れた作品を収集している点にある。

 絵師の意向や彫師、摺師の技術が一番反映されているのは、最初に摺られる「初版」とされる。原コレクションは初版が多くを占める。退色が少なく、当時の鮮やかな色合いを残している点も貴重だ。だからこそ、本展では彫りや摺りの技術の妙を堪能できる。

葛飾北斎「諸国瀧廻り 木曽路ノ奥阿弥陀ケ瀧」。曲線と直線を巧みに使った北斎の水の描写を見事に再現した彫師の技術が光る=提供写真

 「ぜひ会場で見てほしい」。平井さんが後期展示で特に推すのは、北斎の冨嶽三十六景シリーズの「遠江山中」だ。画面中央に巨木が斜めに描かれ、その下から富士山が遠望できるダイナミックな構図に目を引かれる。一方、平井さんは「空摺り」による煙の表現に注目する。

 空摺りとは、版木に色をつけずに摺り、和紙に凹凸をつける技法で、雪や着物の模様などの表現に使われる。今でいうエンボス加工だ。図録では細かな部分までは見えにくいが、実物は繊細な煙の表現が見て取れる。これも「初版だからこそ」だ。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 遠江山中」=提供写真
葛飾北斎「冨嶽三十六景 遠江山中」の空摺り箇所。現代でいうエンボス加工で煙を表現している=柿崎風香撮影

 ◇ぼかし 世界観支える絶妙バランス

 摺りの技術の粋を確かめられるのが「ぼかし」だ。単なる装飾でなく、絵の重要な構成要素となっている。原コレクションの作品の完成度を上げているのは「作品構成におけるぼかしの絶妙なバランス」と指摘する。

 例えば、広重の代表作「東海道五拾三次之内」シリーズの「亀山 雪晴」。一面の雪景色を描いた作品で、画面上には藍色の太い「一文字ぼかし」があり、山際は朝焼けの朱のぼかしが入っている。細いぼかしの多いシリーズの中にあって、本作は太めだ。「朝の空の柔らかな空気感を見事に表している。通常の太さだったら少し物足りない絵になっていただろう」と語る。

 広重の「冨士三十六景」シリーズの「上総黒戸の浦」も、ぼかしのバランスが絶妙だ。上部の藍色の空の太いぼかし▽中央部の山際の朱と水際の細いぼかし▽下部の波打ち際の細いぼかし--といった3層の強弱が画面を引き締め、静かな緊張感のある地平線を表現している。波打ち際などは、薄い部分が大きくなり過ぎると、ぼけた印象になってしまうという。「摺りの技術で、広重の世界観を見事に体現している」と分析する。

歌川広重「冨士三十六景 上総黒戸の浦」=提供写真

 北斎、広重の神髄に迫る作品群。ぜひ会場で確かめてほしい。

INFORMATION

特別展「原安三郎コレクション 北斎×広重」

<会 期>6月14日(日)まで。月曜休館。10~18時(金曜19時半閉場。入場は閉場30分前まで)。
<会 場>京都文化博物館(京都市中京区三条高倉、電話075・222・0888)
<観覧料>一般1900(1700)円▽大高生1300(1100)円▽中小生700(500)円▽未就学児無料。
 ※カッコ内は20人以上の団体料金
 ※詳細は展覧会公式ホームページをご確認ください。

主  催 京都府、京都文化博物館、毎日新聞社
特別協賛 日本化薬
協  賛 大和ハウス工業
特別協力 中外産業

2026年5月21日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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