光と影。その移ろいの瞬間を美術家、大洲(おおず)大作さん(1973年生まれ)の目は捉える。平面やインスタレーションなど写真を軸にした幅広い表現は、水面や車窓といった境界に映し出される人々の営みをすくい上げる。東京・武蔵野市立吉祥寺美術館で開催中の個展「大洲大作 焦点の彼方(かなた)」には、90年代の初期作から新作まで約25点が並ぶ。
例えば一見抽象画のような「flow/float」シリーズ(2021年~)。水面を撮影したシンプルな写真で一切加工されていない。琵琶湖疏水(そすい)や玉川上水、日本橋川。周囲の建物や木々が光と影になって水面に揺らぎ、複雑な模様を描く。「光のシークエンス-Ombre(奥羽本線)」(15年)は車窓から見える世界を捉えたシリーズのプリント作品。被写体は窓越しの雪風景だが、白地に黒い像が浮かぶ観念的な一点だ。
具体的な事物を撮るはずの写真に抽象的なイメージが現れる。この「矛盾」に魅了されるという大洲さんの関心は、水面や窓など異なる領域をつなぐ「インターフェース(界面)」にある。それは過去と未来をつなぐ「現在」へと拡張されるように、私たちが今立つ固有の場にも向けられる。
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新作「Apocalypse90.17-357」は、戦争を巡る武蔵野市の記憶を扱ったインスタレーション。天井からつるされた小さなミサイル型の透明樹脂が床面に丸い影を落とす。樹脂には高性能レンズが閉じ込められている。
作品名の数字は、吉祥寺美術館の近くで戦時下、戦闘機のエンジンを作っていた「中島飛行機武蔵製作所」の地図グリッドと目標を示す番号だ。米軍による爆撃の標的にされたこの地。正確な地図を作るために高性能のレンズが開発されたという。写真の発展は軍事技術と無縁ではない。
19年、東京・上野の地下に眠る京成電鉄の旧博物館動物園駅で発表された「未完の螺旋(らせん)」も戦争の記憶を呼び覚ます。ネジや古い客車の窓、複数の椅子などを使ったインスタレーション。今展にあわせ再構成された。先の駅を含む地下線は太平洋戦争末期の45年6月に接収され、一部はネジ生産の軍需工場となった。同じ頃、大洲さんの父親は旧満州(現中国東北部)の軍需工場に職を得た。

椅子の上、<空襲だけは毎日有った>など父の手記から引用された文章が並び、ネジ製造工員の言葉のようにも読める。昭和20年代製の窓には現代の通勤列車の車窓を撮影した写真が投影され、浮かんでは消える。その隣で、異常を知らせる踏切警報灯の赤いランプがゆっくりと明滅する。
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ネジの突起に刻まれた螺旋さながら、会場全体に異なる時間軸が渦巻く。「日常から非日常へ向かうグラデーションの中、気づいたら思いもよらないところに自分たちは立っているかもしれない」と大洲さん。一方でそんな螺旋状の日常は単なる反復ではなく、変化を兆す「希望でもあるはず」と語る。人間の営みにある光と影を探究する今展は、歴史と未来、その彼方を映し出すスクリーンとなって、私たちの足元を問い直す。31日まで。
2026年5月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載