晴山「虎図」 江戸時代(18~19世紀) 彌記繪菴蔵=提供写真

 ◇立体感・奥行き・濃淡 日本、朝鮮、中国の逸品 5月31日まで

 熱した火箸やこてを紙や絹などに押し当て、その焦げ跡で絵や文字を描き出す「焼絵(やきえ)」。この技法に焦点を当てた日本初の展覧会「焼絵 茶色の珍事」が28日から、中之島香雪美術館(大阪市北区)で始まる。本展の見どころについて、同館の郷司泰仁学芸員に寄稿してもらった。

 ◇What’s YAKIE?
 紙や絹などを焦がして表現 江戸時代、藩主らに流行 寄稿・郷司泰仁学芸員

 焼絵といわれても、「何だろう?」という感想を持つ人がほとんどだと思います。焼絵は、まさに「焼いた絵」、「焼かれた絵」で、火箸やこてを熱したり、線香などの火を用いたりして、紙や絹、竹や木などを焦がして表現した作品です。それで絵や文字が表現できるなんて、想像しづらいかもしれません。しかし日本の記録上で焼絵は平安時代末期までさかのぼり、実際の作品としては江戸時代(18世紀)以降に見られます。江戸時代でも一風変わった技法だったようで、「いといと珍(めず)らかにこそ(非常に珍しいことである)」といわれるほど、なじみない稀(まれ)なものだったようです。そのため、これまでまとめて展示されたことがありませんでした。本展は日本初、いや世界初の、焼絵をテーマとした展覧会だと考えられます。しかも、日本の江戸時代の作品だけではなく、朝鮮の19世紀以降、中国の18世紀以降、さらに現代の焼絵作品が一堂に会します。まさに、いといと稀な展覧会です。

 江戸時代、優れた焼絵を数多く手がけた人物に、現在の滋賀県東近江市にあった山上(やまかみ)藩藩主・稲垣定淳(さだあつ)(1762~1832年)がいます。彼は、俳諧や狂歌などの文学的な素養もあり、当時流行していた絵画の画風なども用いながら、焼絵を制作しました。多くの文化人と交流する中で、焼絵は広がりを見せ、藩主や家老らの間で流行していきました。江戸時代の焼絵には、如仙(じょせん)や如秀(じょしゅう)、如峨(じょが)など、稲垣定淳の号・如蘭(じょらん)から「如」の一字を受け継いだであろう人物の名前が記された作品がたくさんあります。さらに、浮世絵を手掛けた白峨(はくが)(生没年未詳)や北鼎如連(ほくていじょれん)(生没年未詳)なども、焼絵を手掛けました。朝鮮や中国との交流の中でも焼絵は登場し、外交にも一役買ったことが知られています。画題もバリエーションに富み、人物図や花鳥図などが多く、山水図はほとんど見られません。

稲垣如蘭「三十六鱗図(登龍門図)」 江戸時代(18~19世紀) 彌記繪菴蔵=提供写真
如秀「亀図」 江戸時代(18~19世紀) 彌記繪菴蔵=提供写真
猪飼正彀(如翠)「牡丹図」 江戸時代(19世紀) 個人蔵=提供写真

 朝鮮では焼絵を「烙画(らくが)」などといい、16世紀以降に始まったとされますが、詳細は分かっていません。現存作品は19世紀以降のもので、作品を多く手がけた朴秉洙(パクビョンス)(1858~?年)の一族・朴氏と、白南龍(ペクナムリョン)や白南哲(ペクナムチョル)といった白氏の一族によって、烙画の技術が継承される傾向にありました。画題としては、伝統的な山水図と花鳥図を主とし、焦がして書かれた漢詩とともに表現され、教養深い人たちによって受容されたことがうかがえます。

朴秉洙「葡萄図」 朝鮮時代以降(20世紀) 個人蔵=提供写真

 焼絵は焦がして描くため、基本的に色は茶色で地味です。一見奥行きや立体感が出せそうにありませんが、そうではありません。江戸時代には48色の茶色が存在したといわれ、熱の伝わり方を調整することにより淡い茶色から黒に近い焦げ茶色まで、濃淡の幅を持たせることができます。また、金属製の道具を用いるため、いわゆるエンボス加工のような、圧力によって凹凸が出せ、奥行きや立体感を生むことが可能です。是非(ぜひ)目を凝らして、茶色の滋味深い「うまみ」を味わってください。

 ◆イベント

 ◇記念講演会「朝鮮通信使も見た日本の焼絵」

 5月16日(土)14時~15時半、中之島会館(美術館隣)。講師は片山真理子氏(東京芸術大古美術研究施設助教)。参加料500円(展覧会観覧には別途入館料が必要)。定員280人(要事前申し込み、先着順)
申し込みページ

INFORMATION

企画展「焼絵 茶色の珍事」

会 期 28日(火)~5月31日(日)。月曜休館(5月4日は開館し、7日休館)。入場は10時~16時半(5月1日、15日、29日は19時まで)
会 場 中之島香雪美術館(大阪市北区中之島3、06・6210・3766)
入館料 一般1600(1400)円▽高校・大学生800(600)円▽小学・中学生400(200)円※かっこ内は前売り、20人以上の団体料金(前売りは27日まで販売)
    ※5月5日(火・祝)「こどもの日」のみ大学生以下入館無料。詳細は公式ホームページを確認ください。
主 催 毎日新聞社、公益財団法人香雪美術館、朝日新聞社

2026年4月24日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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