「護花鈴」(右隻)、1911(明治44)年、霊友会妙一コレクション(5月8日まで展示)=提供写真

 ◇「暢気に描け!」

 「没後110年 日本画の革命児 今村紫紅」展が25日から、横浜美術館(横浜市西区)で始まる。横浜生まれの画家・今村紫紅(1880~1916年)の42年ぶりとなる大回顧展だ。本展の見どころを、内山淳子・同館主任学芸員が解説する。

今村紫紅=提供写真

 今村紫紅といえば、近代日本画愛好家のあいだでは、後輩たちを鼓舞した「僕が古いものを壊すから、君たちが建設してくれ」という意気盛んな言葉や、芸術の自由を謳(うた)った「暢気(のんき)に描け」という言葉が、知られているかもしれません。また、後輩たちと結成した研究発表会「赤曜会(せきようかい)」で、「大悪は大善なり」の意で「悪」の1文字をあらわしたそろいのバッジを考案し、そろいの黒マントにトルコ帽のいでたちで放歌高吟(こうぎん)したことなど、親分肌で破天荒なエピソードも伝わります。こうした言葉や逸話から、豪放磊落(らいらく)に突き進んだ日本画の改革者のイメージを持つ人も少なくないでしょう。

 一方で、私たちはそうした紫紅の画業について、大規模な展覧会でつぶさに実作品に照らして考える機会が長らくありませんでした。本展では、当館が近年調査の機会を得た多くの個人所蔵品の一部を、美術館や博物館が所蔵する代表作や典型作と併せて展示し、紫紅が日々倦(う)むことなく重ねていた多方面の研究のさまを考察します。また、紫紅の人と作品に迫るための「きっかけ」として、紫紅がのこした四つの言葉を各章のタイトルにしています。(第1章「古画のよい処(ところ)を分解して、その後を追え!」、第2章「絵画は矢張(やはり)多方面に描け!」、第3章「自由も、新も我にあり!」、第4章「暢気に描け!」)

 これまでほぼ知られることのなかった個人所蔵の作品群は、仏画、歴史画、花鳥画、道釈画、物語絵、風景画など多ジャンルにわたり、制作時期は初期から晩年にまで及びます。文展や院展などに出品した意欲的な大作とは異なり、とくに中期以降の道釈画や物語絵は、技巧の妙と簡素でおおらかな雰囲気が共存し、「かろみ」ある魅力を放っています。

 紫紅は、古典を礎に歴史画を研究したのち、1912(大正元)年の「近江八景」、そして1914(同3)年の「熱国之巻」という画期作で、風景画に転じたと言われます。古くから名所絵に描かれた景勝地を自らの目と足でとらえ直した色彩豊かな「近江八景」。インドへの旅に取材し、絵巻の形式で、南国の人々と自然を壮大に描いた「熱国之巻」。いずれも日本画としては未曽有の表現描写で、「革命児」紫紅の名を大いに高めました。

重要文化財「熱国之巻(朝之巻)」(部分)、1914(大正3)年、東京国立博物館 Image:TNM Image Archives(5月20日まで展示)=提供写真

 しかし、先述の希少な個人所蔵品群を見ていくと、紫紅は「近江八景」「熱国之巻」以後も、青年時代から取り組んできた歴史画や物語絵などさまざまな主題をたゆまず手がけ、古画の伝統と新しい絵画のはざまで格闘し続けていた姿が浮かび上がってきます。琳派や文人画といった古画の魅力に惹(ひ)かれ、その良いところを吸収しながらも、それに囚(とら)われることなく心から描きたい絵を描くのだと、試行錯誤していた様子が見えてきます。本展では、紫紅と古画とのかかわりを考える手がかりとして、琳派の典型例である尾形光琳「小督図」や、南画の典型例の池大雅「梅花艸堂図」など、いくつかの古画も特別出品します。

「南風」1915(大正4)年=提供写真
「西遊記」1912(大正元)年=提供写真
「雷神」1916(大正5)年、山口蓬春記念館=提供写真
「鞠聖図」1911(明治44)年、横浜美術館=提供写真

 「暢気に描け」という言葉は、雑誌「多都美」第8巻3号(1914年2月)に紫紅が投稿した文章に記されています。そこで紫紅は、何が古くて何が新しいかに囚われず、心の自由を大切に、自己の内奥から湧きあがる絵を描こう、と訴えかけています。これは後輩画家たちに向けたものであると同時に、若くして新しい日本画のトップランナーとなりながら、真の新しさを切り拓(ひら)くことの困難さと闘い続ける自身を奮起させるための、言葉でもあったのです。

 燃えるような情熱と鋭敏な頭脳で、短くとも濃密に駆け抜けた画家の軌跡。ぜひご覧ください。(寄稿)

 ◇向井理さん音声案内

 音声ガイドナビゲーターは、紫紅と同じく横浜市出身の向井理さん(俳優)=写真=が務めます。貸出料金650円(税込み)。

 ◇多彩なグッズ販売

 作品をモチーフにしたぬいぐるみチャーム=写真、2200円(税込み)=など、多彩な公式オリジナルグッズを会場特設ショップで販売します。

INFORMATION

「没後110年 日本画の革命児 今村紫紅」展

<会期>25日(土)~6月28日(日)。木曜休館(ただし30日、5月7日は開館)。会期中、一部作品の展示替えあり。
<会場>横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3、「みなとみらい」駅徒歩約3分)
<入館料>一般2200円、大学生1600円、中高生1000円、小学生以下無料
<問い合わせ>045・221・0300

主催 毎日新聞社、横浜美術館、TBSグロウディア、神奈川新聞社、tvk(テレビ神奈川)
特別協力 丸栄堂、東京国立近代美術館
協力 みなとみらい線
後援 TBSラジオ

公式サイト

2026年4月24日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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