ヤノベケンジさんの「太陽の塔」型宇宙船「LUCA号」(2024年)=上村里花撮影

 2024年春に東京・銀座を席巻した現代美術家、ヤノベケンジさんの宇宙船「LUCA号」と「SHIP'S CAT」(宇宙猫)たちが10月、大阪の地に降り立った。約1000平方㍍の工場跡を活用した大型現代アートの収蔵庫「MASK」(大阪市住之江区)で開催中の「KENJI YANOBE LUCA:THE LANDING」だ。LUCA号は東京での展示後、解体される運命だったがクラウドファンディングで移設費用を募り、無料での展示が実現。本展終了後には解体され、断片が支援者の手元に届けられる。

 ヤノベさんは1965年、大阪生まれ。70年万博の跡地を遊び場にして育ったことが、創作の原点となっている。中でも強い印象を受けた岡本太郎の「太陽の塔」への一種の応答として生まれたのが、今回のLUCA号だ。高さ8.6㍍の宇宙船は「太陽の塔」を模した造形で、顔は太陽ならぬ猫型。地球の起源に迫るヤノベさんの「妄想」を詰め込んでいる。

 はるか昔、LUCA号に乗って宇宙へ飛び立った宇宙猫たちは、生命誕生前の地球を発見する。宇宙船から無数の宇宙猫たちが四方八方に「爆発」のように飛び散り、地球に降り立った。宇宙の始まりの「ビッグバン」ならぬ「猫大爆発」だ。宇宙猫たちは地球に生命の種をまき、進化を見守り、人類が登場する頃には死に絶えた。その後には、朽ち果てて猫耳が落ちたLUCA号が「太陽の塔」として地球に残された--。

 そんな壮大な「妄想物語」を持ったインスタレーション「BIG CAT BANG」(猫大爆発)が銀座「GINZA SIX」で展開された展示だった。大阪では、このLUCA号と宇宙猫たちが、現代美術家の名和晃平さんや久保田弘成さん、やなぎみわさんらMASK収蔵の6作家の作品と共演するコラボ展示が実現した。

 高さ9㍍超の天井からLUCA号が観客を見下ろし、会場の至るところに大小の宇宙猫たちが出現。やなぎさんの電飾に彩られたステージトレーラー「花鳥虹」(14年)の舞台上を多数の宇宙猫が駆け抜け、久保田さんのプレジャーボートを使った作品「大阪廻船」(13年)に乗船し、名和さんのN響スペクタクル・コンサートの舞台セット(15年)の上を飛ぶ。さらに会場奥には今春、埼玉県飯能市の展覧会で展示されたヤノベさんの巨大な眠り猫「SHIP'S CAT(Island)」(25年)も移設され、脇には東日本大震災での原発事故からの復興を願って制作された「サン・チャイルド」(11年)の姿も。

やなぎみわさんの「ステージトレーラー『花鳥虹』」(14年)とヤノベさんの「SHIP'S CAT」たち=上村里花撮影
名和晃平さんの「N響スペクタクル・コンサート『Tale of the Phoenix』舞台セット」(15年)の上に乗るヤノベさんの「SHIP'S CAT(Flying)」(24年)=上村里花撮影

 疫病や紛争が続く世界で「何か時代に旗を立てるような作品を」と生まれた生命の起源の物語。おもちゃ箱をひっくり返したような楽しくも混沌(こんとん)とした会場で、宇宙の起源や人類の行く末に思いをはせたい。11月3日までの金・土・日曜、祝日の正午から午後6時まで。無料。11月9日は特別開館。

2025年10月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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