アンディ・ウォーホル「マリリン」=渡辺亮一撮影

 ◇版画など130点展示

 伝統的な芸術に反旗を翻し、大衆文化をキーワードに掲げて、1960年代を中心に世界的旋風を巻き起こしたポップ・アート。現代美術の一大運動を主導した米国のアーティストの作品に光を当てる特別展「ポップ・アート 時代を変えた4人」が、北九州市立美術館本館(戸畑区西鞘ケ谷町)で開かれている。ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズの4人が主役格。版画やポスターなど約130点から成る。

 ■反復、連続するマリリン

 ポップ・アート四天王の中でも最も経済的成功を収め、知名度が高いのはウォーホルである。大衆の好みを熟知していた彼はスーパーに並ぶ商品や有名人を作品として扱った。

 10点組みのスクリーンプリント「マリリン」(1970年)は、ハリウッドスター、マリリン・モンローの肖像写真に鮮烈な色彩を施したもの。「反復」「連続性」を旨とする作風の特徴が示されている。同シリーズの制作はモンローが62年に亡くなった直後から始まった。人の死を商品化する発想に驚かされる。他人が撮影した写真をベースにアレンジを加え、自作として売り出す大胆不敵さもウォーホルならではだろう。

 本展でも展示されている「キャンベル・スープ缶」シリーズに代表されるように、米国の大量消費を題材に据え、シルクスクリーン印刷でアートの大量生産を可能にしたウォーホルは、大衆芸術を意味するポップ・アートを象徴する存在と言える。芸術をビジネスと捉え、自身のアトリエをファクトリー(工場)と呼び、大勢のスタッフを雇った点も異色。20世紀美術に残したインパクトの強さでいえば、磁器の男性用小便器に署名し、作品として提示したダダイズムの巨匠、マルセル・デュシャンに匹敵する。

 ■マンガの手法で音を視覚化

 ウォーホルがニューヨークに出てきた49年当時、米国の美術界を席巻していたのはジャクソン・ポロック、マーク・ロスコに代表される抽象表現主義だった。彼らの絵画は深い精神性をたたえているが、抽象的なため、美術ファン以外には訴求しづらい。そこに風穴を開けたのが、一見分かりやすくて身近なポップ・アートだった。

 商業デザイナーから画家に転向したリキテンスタインはマンガを引用した作品群で一世を風靡ふうびした。明快な構図と強烈な色彩がトレードマーク。オフセット・リトグラフ「読書をするタンタン」(95年)は、人気コミック『タンタンの冒険』の主人公が室内で新聞に目を通す様子を描く。顔は大作の油彩画でおなじみのドットが強調され、壁に飾られた絵はアンリ・マティスの「ダンス」。ひねりが利いており、先達への敬意も感じられる。穏やかな日常の風景かと思いきや、ナイフらしきものがタンタンのそばを横切り、事件の予感も。マンガの一コマのようでいて、情報量の多い作例だ。文字にも注目したい。本作の場合、部屋のドアがわずかに開き、フランス語で物が折れたり、壊れたりする音を表す「CRAC」の4文字が記されている。マンガの手法を使えば、音すら視覚化できるのだ。その点、北九州市立美術館所蔵の絵画「消防士」に見られるように、衝撃音などの文字を入れる例が多いジャン=ミシェル・バスキアは、リキテンスタインの影響を受けた一人かもしれない。

ロイ・リキテンスタイン「読書をするタンタン」=渡辺亮一撮影

 ■現代に生きるポップ精神

 ジョーンズとラウシェンバーグは、ポップ・アートへの道を開いたネオ・ダダの二大巨匠でもある。ジョーンズは旗や地図を主題にして、絵画の可能性を広げた。ラウシェンバーグは平面と日常品などを結合させた「コンバイン・ペインティング」を考案し、従来の芸術の枠組みを問い直した。

 本展では4人の他に、ジェームズ・ローゼンクイスト、トム・ウェッセルマンらの作品も紹介している。大作の油彩画がないのは残念だが、ポップ・アートのエッセンスは存分に味わえる。ポップ・アートは決して過去の遺物ではない。村上隆らの例を持ち出すまでもなく、その精神は時代と国境を超えて受け継がれ、今も生き続けている。

 29日まで(月曜休館)。

2025年6月6日 毎日新聞・福岡版 掲載

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