
生涯で100近くの住宅を設計した建築家、阿部勤(1936~2023年)。阿部が自ら設計し、亡くなるまで暮らした自邸「中心のある家」(74年、埼玉県所沢市)は代表作であり、完成から半世紀がたった今もなお、多くの人を魅了している。東京都江東区のGALLERY A4(ギャラリーエークワッド)では、中心のある家をはじめ、阿部が手がけた住宅からその足跡をたどる企画展「建築家・阿部勤のいえ展 暮らしを愉しむデザイン」が開かれている。
阿部は早稲田大を卒業後、坂倉準三建築研究所に所属。66~70年、タイに学校を建設するプロジェクトを担当し、日本とタイを行き来する生活を送った。ひさしの下に日陰をつくったうえで、屋内に風通しのいい半屋外のような空間を持ち、内と外が混じり合うようなタイの建築は、中心のある家を含め、その後の阿部の住宅建築に大きな影響を与えた。
本展ではスケッチや模型、平面図、写真などを通して、阿部が追究した、住む人の生活に寄り添い快適に過ごせる家づくりの極意に迫る。建築作品を追った年表では、設計した92の住宅が一覧でき、いかに阿部が住宅建築に力を注いだかが見て取れる。
代表的な住宅の模型も貼り付けられており、平面図とともに開いた空間、閉じた空間で色分けされている。屋内・室内・壁・屋根のある閉じた空間が少ない一方、開かれた空間や、屋根や壁のない「中間領域」が多い、阿部住宅の特徴が一目で分かる。「阿部は中か外か分からない、自然と戯れることができる空間を大事にしていた」と学芸員の徳田京さん。
中心のある家はその名の通り、真ん中に配置された部屋(1階はリビング、2階は寝室)を、回廊のような空間が取り囲むデザイン。回廊のような空間は居室でもあり廊下でもある。手書き図面や、最終案に至るまでの試案スケッチ、再現コーナー、内部の撮り下ろし映像などで多角的に紹介され、阿部ならではの暮らしを楽しむポイントも解説されている。

ほかに、津田沼の家、練馬の家、国分寺の家の図面や写真も展示されており、こんな家に暮らしたらどうだろうと夢が広がる。6月26日まで。
2025年4月23日 毎日新聞・東京夕刊 掲載