
美術館が自館の所蔵品を展示するコレクション展は、有名作品を集めた企画展と比べると一見地味だが、その館の思想を知ることができる貴重な機会。館にとって、いかに見せるか腕の見せどころでもある。滋賀県立美術館(大津市)で、落語の演目と多彩な作品を結びつけて紹介するユニークなコレクション展「落語であーっ!と展」が始まった。
本展は23演目に出てくる風景や物に絡めて、日本画、アメリカ美術、染織、アール・ブリュット作品など75件(うち71件が同館所蔵品)を紹介。20世紀を代表する彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻と幕末から明治期に活躍した岸竹堂の日本画など、通常の美術展では珍しい取り合わせが実現した。落語の監修は県出身の落語家、三遊亭わん丈さんが務めた。

地元ゆかりの古典落語「近江八景」をテーマにした一室には、わん丈さんによる落語の音声が流れる中、野村文挙の日本画「近江八景図」(1899年)を展示。お金が出てくる噺(はなし)のオチにちなみ、赤瀬川原平の現代アート「千円札印刷作品Ⅰ~Ⅳ」(1963年)が共に並ぶ。
「猫の皿」に絡めた展示では、前田青邨(せいそん)の日本画「猫」(49年)のほか、可愛らしい子猫が中央に鎮座するトム・ウェッセルマンのコラージュ作品「グレート・アメリカン・ヌード#6」(61年)を紹介。「雁(かり)風呂」では日本画家、小倉遊亀(ゆき)の「童女入浴」(26年)、志村ふくみさんの紬織着物「雁」(66年)などを取り上げる。
落語ファンにとっては、有名な人情噺「井戸の茶碗(ちゃわん)」に出てくる名器「井戸茶碗」の実物が見られるのがうれしい。井戸茶碗は16世紀の朝鮮半島産の茶器で「一井戸二楽三唐津」と称され、わび茶に用いる茶器の最高位の一つ。本展では北村美術館(京都市)蔵の「井戸茶碗 銘 雨雲」を紹介する。
ほか上方落語家の桂三度さんの新作落語「虹」の音源に桂二葉さんがイラストを付けたオリジナルの動画を上映。自分の頭の上にできた池に飛びこむ男を描いたシュールな噺「あたま山」を山村浩二監督が短編アニメーション化した「頭山」(2002年)もスクリーンに映されており、家族連れも楽しめる。
本展タイトルは「そこまでやっちゃう? 落語と美術の無理矢理コラボレーション」と続く。企画側の遊び心に「(かしこまらず)いろいろ突っ込みながら、家族や友人らとわいわい感想を言い合って見ていただけたらうれしい」と保坂健二朗館長。美術に親しむきっかけとなる展示だ。6月8日まで。
2025年4月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載