
「髙田賢三展 パリに燃ゆ、永遠の革命児」が12日から兵庫県の姫路市立美術館で始まる。姫路市出身の世界的ファッションデザイナー・高田賢三(1939~2020年)の没後初の大規模回顧展となる本展の見どころを本橋弥生・京都工芸繊維大学准教授が解説する
高田賢三とは一体何者なのか?
ケンゾー――。その名を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

弾けるような色彩、生き生きと咲き誇る花柄のエネルギー。そして、世界の遥か遠くの国から届いたかのような、旅の匂い。
1970年、パリ。五月革命を経て、若者たちがファッションの主役へと躍り出た時代に、高田賢三はギャルリー・ヴィヴィエンヌに「ジャングル・ジャップ」(後にケンゾー)をオープンし、時代の革命児として、パリのファッション界に旋風を巻き起こした。ケンゾーの服には、世界各地の民俗衣装のエッセンス、鮮やかな色彩、自然の命の輝き、そして何より「自由」が宿っていた。

だが、今回、高田賢三の故郷・姫路での高田賢三展が提示するのは、そうした服の魅力だけではない。それは、「高田賢三は私たちに何をもたらしたのか」を改めて問い直し、新たな高田賢三像を浮かび上がらせる試みである。
東京展の開幕後、さらなる関係者へのインタビュー調査を経て、姫路展では東京で展示した70年代、80年代の代表作に加え、創作の原点とも言える自宅空間や、90年代の新たな挑戦となった舞台衣装など、ファッションの枠を超え、より大きな視点から彼のクリエーションの世界に光を当てる。
例えば、新宝塚大劇場のこけら落とし公演「PARFUM DE PARIS」(93年)のために手がけた衣装や、姫路でのファッションショーで発表された服に加え、高田が手放した後に建築家・隈研吾がフランス人企業家のための住宅・レストランへと改装したパリの元自邸「高田賢三ハウス」など、これまで語られてこなかった側面にも光を当て、新たに彼の創造世界の深層を掘り下げる。

70年代、高田賢三がパリのプレタポルテ(高級既製服)のショーを行ない、オートクチュール中心だった流れをプレタポルテへと転換させたデザイナーの一人であることは広く知られている。しかし、それだけではないと長年、高田と共に仕事をしてきたデザイナー・佐々木勉は語る。高田の服はショーのために特別に作られたものではなく、日常着として店舗に並べるための服を、ショーでは新たなルックとして組み合わせ、作品として提示した。華やかな演出の中でアートのように輝くルックでありながら、それらはやがて店頭に並び、人々の生活へと入っていった。ケンゾーの服は、創造性と日常性を併せ持つ稀有な存在であった。
また、彼のデザインは創造性豊かなものでありながら、縫いやすく、仕立てやすい実用性を備えていた。斬新なデザインと構造、そして商品としての完成度――その全てを満たしたからこそ、ケンゾーがパリでプレタポルテを真に産業として根付かせたと、佐々木はそう強調する。
さらに高田は、その後に続く日本人デザイナーたちがパリで活躍する道筋を切り拓いた先駆者でもあった。
姫路展の展示構成は、高田賢三の多面的な創作領域を横断しながら、「高田賢三とは何者だったのか」を問い直すものとなっている。70年代の初期作品、80年代の洗練と成熟、90年代以降の新たな挑戦――それぞれの時代に込められた高田の思考と美意識が、ひとつの空間の中で交差する。
そこに浮かび上がるのは、変化を恐れず、境界を越えて時代を創っていった表現者としての姿である。そして、「服を着ること」をとおして日常に創造を根付かせた高田の眼差しが、訪れる者の感性に深く響くだろう。
高田賢三は、世界中の人々から愛されたデザイナーである。今回、故郷・姫路という原点に立ち返ることで、あらためて問いかけたい。彼がパリで切り開いた「新たな道」とは、一体何だったのか――それは、過去だけのものではない。現在にも続いている。ぜひ、その答えを感じ、そして考えてみてほしい。
◇図録、グッズ 通販でも
新たに撮り下ろした衣装の写真や当時のファッション写真を多数掲載した決定版となる図録(B5変型判・税込み3500円)、作品をモチーフにしたTシャツなどの各種グッズを会場のミュージアムショップで販売します。
図録と一部のグッズは通販サイト「まいにち書房」でも購入可能です。


INFORMATION
「髙田賢三展 パリに燃ゆ、永遠の革命児」
会期:4月12日(土)~7月21日(月・祝)。月曜休館(祝日は開館し、翌平日閉館)。入館は10時~16時半
会場:姫路市立美術館(兵庫県姫路市本町68の25、電話079・222・2288)
観覧料:一般1500円▽大高生1100円▽中小生800円
チケット販売場所:同館窓口またはオンラインチケット ※展覧会やイベントなどの詳細は美術館ホームページをご確認ください。
主催:姫路市立美術館、毎日新聞社
特別協賛:ヤマサ蒲鉾
協賛:DNP大日本印刷
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセなど
特別協力:文化学園ファッションリソースセンター、KENZO PARIS、パリ装飾芸術美術館、隈研吾建築都市設計事務所
協力:NDK日本デザイン倶楽部、米谷紙管製造、日本航空、白城会、姫路市立美術館友の会、姫路日仏協会、兵庫県パリ事務所、服飾美学会
2025年4月11日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載