
ビデオカメラをはじめとする新しい技術による、新しいメディアの誕生は、社会で抑圧されてきた女性作家たちに発信を促した。1970年代から現代に至る映像表現のなかのフェミニズム的表現を、収蔵品から紹介する小企画「フェミニズムと映像表現」が東京・竹橋の東京国立近代美術館(東近美)で開催されている。昨年9~12月の前期が好評だったため、一部作品を入れ替えて延長した企画だ。
「このような反応は極めて珍しい」。同館主任研究員の成相肇さんは話す。アート系メディアやフェミニズム系の書き手だけでなく、ファッション誌からも問い合わせが続く状況だという。「それだけ広く関心を呼ぶ主題になったということでしょう」
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展示室を進むと、左手に遠藤麻衣さん(84年生まれ)と百瀬文さん(88年生まれ)による映像作品「Love Condition」があり、粘土をこねながら2人の女性が「理想の性器」についておしゃべりをしている。金沢21世紀美術館で開催された「フェミニズムズ/FEMINISMS」展でも目にしたもので、東近美がこの作品を収蔵したことから、「フェミニズムと結びついた作品を美術史の流れで見せたい」(研究員の小林紗由里さん)と企画した。
「個人的なこと」「対話」「『私』の分裂」の三つのキーワードの下、ほかに出光真子、マーサ・ロスラー(米国)やナンシー・ホルトとロバート・スミッソン(同)、キムスージャ(韓国)の作品を展示する。
ビデオアートの開拓者、出光さん(40年生まれ)の作品は三つあり、いずれも80年代の制作。ブラウン管のテレビモニターを、画面のなかに入れ子構造のように取り込み、日本社会における女性の苦悩を直接的に表現した。女性作家と社会的障壁を描いた「清子の場合」(89年)では、抑圧の言葉が画面内のモニターから呪いのように流れて画家の清子を苦しめる。今なお心当たりのある言葉の数々には、背筋が凍る。
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研究補佐員の小川綾子さんによると、同館では中期計画(2021~26年)に基づき、意識的に女性作家の作品を収集してきた。23年度は米田知子、桂ゆきら85点中、22点が女性作家によるものだった。こうした状況を反映し、「海外で女性作家を再評価する流れがあるなか、東近美でもできないか」(小川さん)と試みたのが23年の「女性と抽象」展。本展はこれに続くシリーズだという。
「ことさら女性に焦点を当てたコレクション展内の企画は、19年の『解放され行く人間性』展以前はなかった」と、成相さんは指摘する。前後期合わせて13点を紹介した今回の試みについて、小林さんは「ピースをつなぎ合わせれば変遷がゆるやかに浮かび上がってくるが、全貌を伝えるにはコレクションが足りないと改めて思った。写真や絵画なども含めて、フェミニズム的視点で分析できるような作品が、もっと(所蔵品に)入ってくるといいですね」と期待していた。6月15日まで。
2025年3月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載