漫画のフロアの展示風景=小松やしほ

【展覧会】
漫画家7人と斬新コラボ
吉村靖孝さん建築展 東京

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

建築

 一般的に建築展というと、写真や模型などの展示を想像するだろう。だが「TOTOギャラリー・間」(東京都港区)で開催中の「吉村靖孝展 マンガアーキテクチャ--建築家の不在」はちょっと違う。建築とデザインの専門ギャラリーとして今年40周年を迎える歴史の中でも「初めて」という、漫画家とのコラボレーションを実現した。同ギャラリーの筏久美子代表は「建築をいかに社会に開くのかをずっと提案してきた吉村さんならではの、奇想天外な展覧会になっている」と話す。

 吉村さんは1972年生まれ。早稲田大で学んだのち、99~2001年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてオランダの建築家集団「MVRDV」に在籍した。18年からは早稲田大教授も務めている。

吉村靖孝さん=小松やしほ

 吉村さんは2年前、脳出血を発症した。今も後遺症と闘う身だが、リハビリに要する期間が本展の構想・準備期間とちょうど重なった。吉村さんがいなくても展覧会はできるのか。漫画を展示の核にする構成や「建築家の不在」というタイトルは、吉村さんの不在という必然に由来する。

 3階の展示室は、漫画のフロア。7人の漫画家が描いた短編漫画を中心に構成されている。コルシカさんは「Nowhere but Sajima」(神奈川県横須賀市、08年)を描き、川勝徳重さんは「Red Light Yokohama」(横浜市、10年)、三池画丈さんは「フクマスベース」(千葉県市原市、16年)--というように、吉村さんの七つの作品を題材に、建築から発想される世界をそれぞれが描き下ろした。壁側の展示台で、大判に印刷された漫画を読むことができる。拡大したことで、細かな描き込みまでよくわかる。展示室中央には、「漫画を読んだ後に考えたことを模型にした」七つの作品が展示されている。

 4階は建築のフロア。3階の展示と同じ空間構成になっており、3階で漫画が置かれていた展示台には建築図面、展示室中央には大型の建築模型が並ぶ。本展のポスターに描かれた漫画のコマ割りが、展示プランを示しているのは一興だ。

「滝ケ原チキンビレジ」(石川県小松市、2021年)の建築模型=小松やしほ

 3階のテラスには吉村さんがこれまで使ってきたスケールフィギュア(設計図や模型で用いる人や物のフィギュア)を実寸大で展示した。図面、CG、イラストなどフォーマットは違うが、漫画と建築をつなぐ役割を担う。

 吉村さんは「漫画家という他者に委ねたことでこの展示が成立しているが、同時に建築家の作家性も全くなくなったわけでもないということを感じてもらえれば」と話した。3月23日まで。

2025年2月12日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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