◇空海ら高僧との関わりも?
東洋と西洋を結ぶ交易路として紀元前から栄えたシルクロード。人や物だけでなく、仏の教えもこの道を通って伝えられた。京都文化博物館(京都市中京区)で開催中の「世界遺産 大シルクロード展」では中国で見つかったシルクロードゆかりの品々が並び、日本でもなじみのあるお経や仏像の源流を感じることができる。
会場では漢文の経典や壁画など、中国での仏教文化の発展を示す文物が並ぶ。「観世音菩薩(ぼさつ)普門品(ふもんぼん) 断簡」は、いわゆる「観音経」として親しまれるお経の一部。新疆ウイグル自治区・トルファンにあるベゼクリク石窟から1980年に出土した。
残っているのはお経の最後の部分と奥書。「この奥書には『建昌5年』という年号が書かれています。これは高昌(こうしょう)国の年号で、西暦559年に書かれたことが分かります」と展示を担当した同館の佐藤稜介学芸員が解説する。高昌国は、唐からインドへと経典を求めて旅をした僧・玄奘(げんじょう)にも関係が深い。「仏教を大切にした国だったようで、玄奘はインドへ行く途中に高昌国に立ち寄って手厚い施しを受けた。しかし、帰路には国そのものが滅んでいた。その国の遺品が年号と共に残されているのは非常に貴重です」と力を込める。
また、観音経の終盤にある「偈(げ)」(詩)の部分が抜け落ちているのも特徴。現在では盛んに読経される偈だが、当初は漢訳されておらず559年より後に挿入されたことが分かる。お経の成立過程を物語る証人だ。
仏像では、白い大理石に精緻に彫刻された「馬頭観音坐像(ざぞう)」が目を引く。中国の国宝にあたる「一級文物」。「観音」といっても優しげな姿ではなく、三つの顔と8本の腕を持ち、怒りの表情を浮かべる密教的な像だ。1959年にかつて唐の都・長安があった西安市の寺跡から出土したとされる。金箔(きんぱく)や緑の彩色がわずかに残り、かつての美しさが想像できる。
唐で密教が栄えた8世紀の作とされ、佐藤さんは「長安で密教を学んだ空海や円仁といった日本の僧侶が拝んだ可能性も十分にある」と指摘する。空海は帰国後、日本の密教を大成する。「この像に日本密教彫刻の源流を見ることができるかもしれない」と佐藤さんは語る。
「大シルクロード展」は2月2日まで。
2025年1月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載