東アジア最高峰とも称される仏教絵画が一堂に並ぶ特別展「宋元仏画-蒼海を越えたほとけたち」が京都国立博物館(京都市東山区)で開かれている。21日から作品が大きく入れ替わり、後期展示が始まる。見どころを同館の森橋なつみ研究員が紹介する。
◇東アジア結んだ祈り
「宋元仏画」とは何か--。第一義的には中国の宋時代、元時代に制作された仏画(仏教絵画)であるが、この展覧会に並ぶ「宋元仏画」は、仏法を求めて隣国に渡った先人たちによって日本へもたらされ、今日まで守り伝えられたものである。この仏画群がこれほど充実した質と量で伝えられているのは日本文化に深く浸透したからであり、幸いであり奇跡的ともいえる。この貴重な宋元仏画を一堂に会し、隣国の仏教美術の粋を見渡すとともに、仏教で結ばれた東アジア世界の文化の交流を振り返る。
脆弱な文化財には展示期間の制限が設けられているため、本展では前期と後期で大きく展示作品を入れ替える。21日からはじまる後期展示の注目作をご紹介しよう。

まず筆頭にあげたいのが、展覧会のメインビジュアルとしても掲げた「観音猿鶴図」(国宝、大徳寺蔵)。静寂のなかで悟りを求めて瞑想する観音を中幅とした禅の深い精神性を示すこの作は、日本の水墨画の発展に決定的な影響力を持った画家牧谿の代表作。水墨画を手がけた日本の画家はみな牧谿の画を学習したといっても過言ではない。あわせて紹介する長谷川等伯の「枯木猿猴図」(重要文化財、龍泉庵蔵)はまさに牧谿の「観音猿鶴図」の学習成果を直接的に発揮し、俵屋宗達の「蓮池水禽図」(国宝、京都国立博物館蔵。11月3日まで展示)は牧谿流の水墨表現の妙味を捉えて自己のものとしている。

また着色の仏画も重要作例が目白押しである。普悦が手がけた「阿弥陀三尊像」(国宝、清浄華院蔵)は、まるで光の中に現れ出たかのように、おぼろげな姿で仏をあらわす。仏は自身の心の中にあるとする浄土教の思想を反映したものとみられ、宗教性と芸術性の双方に極めて優れた作である。一方、陸信忠の「仏涅槃図」(重要文化財、奈良国立博物館蔵)は対照的な明瞭さで、本来の涅槃の場面にはない要素をいくつも取り込んだ異色作。とりわけ釈迦の入滅の際に白く枯れたとされる沙羅双樹が、極楽浄土に生じる七層宝樹に置き換えられた点は、当時の往生思想と関連するとみられている。これらの名品も展覧会のごく一部。まだまだ奥深い「宋元仏画」をまとめて紹介する稀有なこの機会を、どうぞお見逃しなく。

INFORMATION
宋元仏画-蒼海を越えたほとけたち
会 期:11月16日(日)まで。月曜休館(11月3日は開館し、翌4日休館)。入館は9~17時(金曜は19時半)
会 場:京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町、075・525・2473)
観覧料:一般2000円▽大学生1200円▽高校生700円▽中学生以下無料。※詳細は展覧会公式ホームページをご確認ください。
主 催:京都国立博物館、毎日新聞社、京都新聞
協 賛:DNP大日本印刷、大和ハウス工業
2025年10月21日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載