「世界遺産大シルクロード展」の展示風景=京都市中京区で、大西岳彦撮影

 ◇京都文化博物館で来年2月2日まで

 ユーラシア大陸を横断し東洋と西洋を結んだ大交易路、シルクロードゆかりの美術品が並ぶ「世界遺産 大シルクロード展」が、京都文化博物館(京都市中京区)で開催中だ。中国の遺跡で見つかった遺物が中心だが、そのいくつかは奈良・正倉院に伝わる宝物によく似ていることに気づく。奈良国立博物館で長年「正倉院展」の開催に携わった内藤栄・大阪市立美術館長に、その関わりについて語ってもらった。

内藤栄 大阪市立美術館長=花澤茂人撮影

 正倉院はもともと東大寺の宝庫で、大仏に献納された聖武天皇の遺愛品などを現代に伝える。シルクロードを通り奈良時代の日本にやって来た宝物も多く、「共通点を挙げていったらきりがないほど」と内藤さん。

 中でも「砂漠の正倉院」の異名を持つアスターナ古墓群から出土した文物には「驚くほど似ているものが多い」。新疆ウイグル自治区・トルファンの遺跡で、乾燥した気候条件のため本来残りにくい紙や染織品などがタイムカプセルのように残る。

 「樹下美人図」は、正倉院の「鳥毛立女屛風(とりげりつじょのびょうぶ)」に描かれた樹下にたたずむ女性を思い出させる。「日本で描かれた『鳥毛立女屛風』と比べると、『樹下美人図』は頰全体が真っ赤、派手な花鈿(かでん)(額の化粧)といった違いはあります。それでも、その源流を感じさせます」

一級文物「樹下美人図」 唐・8世紀 1972年新疆ウイグル自治区トルファン・アスターナ古墓出土 新疆ウイグル自治区博物館=提供写真

 「唐花文錦鞋(からはなもんにしきくつ)」は正倉院に4足が伝わる女性用の履物「繡線鞋(ぬいのせんがい)」とうり二つ。「唐の都である長安などで作られたものが、片やトルファンへ、片や日本へと流れ着いたのでしょう。形はほぼ同じですが、繡線鞋には刺しゅうが加えられより丁寧な印象です」

一級文物「唐花文錦鞋」 唐・8世紀 1968年新疆ウイグル自治区トルファン・アスターナ古墓出土 新疆ウイグル自治区博物館=提供写真

 他の遺跡でも、全面に切子を施したガラス碗(わん)「切子杯」は、ペルシャ産とされる正倉院の「白瑠璃碗(はくるりのわん)」を思わせるが、この二つは出身地が違うという。「切子杯はソーダ石灰ガラス製で、ローマ帝国産だと思います。(帝国が東西に分裂した後の)東ローマ帝国は絹やコショウを得るための交易で、ペルシャ人好みのガラス器を作って売っており、その一つでは」とみる。「私たちはシルクロードの西の端はペルシャとイメージしがちですが、本当はもっと先、地中海まで延びていたのです」。細かな違いの背景に、壮大な歴史が浮かぶ。

「切子杯」3~4世紀 1996年新疆ウイグル自治区チェルチェン・ザグンルク古墓出土 新疆ウイグル自治区博物館=大西岳彦撮影

 正倉院とは離れるが、内藤さんは「『印度佛像(ぶつぞう)』銘塼仏(せんぶつ)」にも注目しているという。粘土で作られた仏像の浮き彫り。「非常に薄い衣を着たインドスタイルの仏像で、おそらく(インドから中国に経典を伝えた唐の僧)玄奘が制作に関わったものです」。これが川原寺(弘福寺(ぐふくじ)、奈良県明日香村)で見つかった飛鳥時代の塼仏によく似ているという。「玄奘のもとで学んだ日本人僧・道昭が帰国して川原寺の塼仏が生まれたのでしょう。当時の情報伝達の速さを感じさせます」

「『印度佛像』銘塼仏」 唐・7世紀 西安博物院=提供写真

 シルクロードに眠っていた品々は、古代の日本人が憧れた文物そのものと言える。「よく正倉院はシルクロードの終着点などと言われますが、宝物は商人たちが運んできたわけではありません。当時の日本人がとにかく憧れて、命を懸けて大陸に渡り持ち帰ってきたのです」。展示会場では、日本文化の礎となったその情熱の一端を感じられるかもしれない。

一級文物「双六盤(すごろくばん)」 唐・7世紀 1973年新疆ウイグル自治区トルファン・アスターナ古墓出土 新疆ウイグル自治区博物館=提供写真

INFORMATION

世界遺産 大シルクロード展

<会 期>2025年2月2日(日)まで。月曜と12月28日~1月3日休館(ただし1月13日は開館し、翌日休館)。入場は10時~17時半(金曜は19時まで)
<会 場>京都文化博物館(京都市中京区三条高倉、電話075・222・0888)
<入場料>一般1600(1400)円▽大高生1000(800)円▽中小生500(300)円。カッコ内は20人以上の団体料金
※展覧会の詳細は同館サイトをご覧ください。

<主  催>京都府、京都文化博物館、中国文物交流中心、毎日新聞社、京都新聞、MBSテレビ
<共  催>京都市
<後  援>外務省、中国人民対外友好協会、中国大使館、(公社)京都府観光連盟、(公社)京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都
<企画協力>黄山美術社
<企  画>東京富士美術館

2024年12月18日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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