ドイツを拠点とするアーティスト、西川勝人さんの個展「西川勝人 静寂の響き」がDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)で開かれている。
西川さんは1949年東京生まれ。慶応大卒業後の73年にドイツへ渡り、デュッセルドルフ美術アカデミーで学んだのち、80年代から制作を始めた。作品に通底するのは光、そして陰影だ。「色は光の波長」と西川さんは言う。
大きな窓が両側にあり、光あふれる展示室。正面の白い壁には24枚のカラーガラスが並ぶ(「静物」2005年)。独レーム社製のアクリルガラスを使ったシリーズで、イタリアの画家ジョルジョ・モランディの静物画の24色に着想を得たという。18種の色を組み合わせて重ね、独自の色を生み出す。透明、不透明、重ねる層が増えれば色のバリエーションは幾千にも及び、層の厚みの違いによっても表面の色は変化する。
窓のそばには、ガラスでできたホオズキがごろんと五つ(「フィザリス」96年)。差し込む光や見る人の影を映し込んで、色づいて揺らぎ、さまざまに表情を変える。ガラスはイタリア・ムラーノ島の職人が、西川さんの指示の下、5人掛かりで吹いた。
メインの展示室には、高さ1㍍、奥行き50㌢の白い塀のような構造物が設置され、空間全体が「ラビリンス断片」(24年)という作品となった。九つの区画に等分され、規則的に置かれた彫刻作品を見ながら空間を巡っていく。日中は照明を使わず、明かりは天窓からの自然光のみ。天気や時間が変化することによって光や陰影は移ろい、作品もまた違った顔を見せる。
室内は、区画中央にある白い花びらを敷き詰めたインスタレーション「秋」(24~25年)が放つ柔らかな香りに満ち、静けさが心地よい。「静」は「聖」となり「一人のため」にここはあると思わせる。
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DIC川村記念美術館は今、現地での存続が危ぶまれる状況にある。所有・運営する化学メーカーDIC(本社・東京都)は今夏、運営の見直しに伴い、来年1月26日までの本展を最後の企画展として休館すると発表した。しかし休館を惜しんで来館する人が増えたため、休館時期を3月下旬からに変更。本展閉幕後はコレクション展を開催予定としている。
美術館は90年に開館。モネやピカソら西洋近代美術に加え、フランク・ステラなど米国の現代美術のコレクションで知られる。なかでもマーク・ロスコの絵画7点を展示する「ロスコ・ルーム」は名高い。DICは所蔵作品を含めた館の今後の運営方針について、今月下旬に発表するとしている。
2024年12月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載