一級文物「瑪瑙象嵌杯」5~7世紀 1997年新疆ウイグル自治区出土 イリ州博物館

 ◇中国から総数約200点

 日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」が23日、京都文化博物館(京都市中京区)で開幕する。中国9省2自治区にまたがる博物館・研究機関の協力を得て、シルクロードゆかりの遺跡から発見された美術品など約200点が一堂に会する。昨年から全国5カ所を巡回し、京都展がフィナーレを飾る。見どころを、同館の佐藤稜介学芸員が紹介する。

 ◇登録後、初の大規模国外展

 「シルクロード」の言葉が持つ優雅な響きは、世代を超えて異国への憧憬(しょうけい)を呼び起こす。

 そもそも、シルクロードの語は、ドイツの地理学者リヒトホーフェンの造語(厳密にはその英訳)であり、言葉としての歴史は150年程度に過ぎない。古来、ユーラシア大陸を東西に結んだ幹線に名を付けるにあたり、東の起点、中国の名産品であった絹を選んだのである。20世紀も後半に入ると、各国の調査団によるシルクロード沿道の研究が進展する。その成果を受けて、中国の莫高窟(ばっこうくつ)や龍門石窟、ウズベキスタンのブハラ、サマルカンドなど、沿路の遺跡がユネスコの世界遺産に登録されてゆく。

 その流れで特筆すべきは、2014年に「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」として、中国、カザフスタン、キルギスの関連遺跡33件が、一群として世界遺産に登録されたことである。この前後より、シルクロードに対する学術調査は、また一段と活況を呈した。本展は〝世界遺産登録後、初の大規模国外展〟としての意義がある。

 さて、以下では、展示内容にフォーカスしてその概要を述べたい。第1章は、「民族往来の舞台--胡人(こじん)の活動とオアシスの遺宝」として、シルクロードの西方や北方に由来する名品を紹介する。本展のメインビジュアルにも据えた「瑪瑙象嵌杯(めのうぞうがんはい)」の装飾は、ユーラシア草原地帯に特徴的であり、金の柄・胴部と赤色の瑪瑙との調和が美しい。

 「東西文明の融合--響き合う漢と胡の輝き」と銘打った第2章では、シルクロード開通の歴史をたどりつつ、唐代の名品を中心に、国際色豊かな作品を展観する。中国の王朝によるシルクロードへの熱視線は、前漢の武帝が西域に張騫(ちょうけん)を派遣したことに始まる。「献馬図」は、張騫が見聞した西方の名馬〝汗血馬〟を思わせる馬の図であり、これを牽(ひ)く西域人の風貌とともに迫力に満ちている。また、唐三彩の優品である「駱駝(らくだ)」は、シルクロードを行き交った隊商(キャラバン)を象徴する造形で、伸びやかな四肢と繊細な荷物とが破綻なく表現される。

一級文物「献馬図」 唐・666年 1991年陝西省出土 昭陵博物館
「駱駝」唐・8世紀 1972年河南省洛陽市出土 洛陽博物館

 シルクロードの歴史で忘れてはならないのが、インドで生まれた仏教が、この道を伝って中国まで伝来した点である。第3章では、「仏教東漸(とうぜん)の遥(はる)かな旅--眠りから覚めた経典と祈りの造形」として仏教美術の優品を紹介する。「観世音菩薩普門品(かんぜおんぼさつふもんぼん) 断簡(だんかん)」は、いわゆる『観音経』の一部であり、559年に麴氏(きくし)の治める高昌国(現在のトルファン)で書写されたと奥書から判明する。理想化された体軀(たいく)表現と細部の造形が見事な「菩薩坐像(ざぞう)」はじめ、仏教彫刻の名品もお見逃しなく。

「観世音菩薩普門品 断簡」(部分)麴氏高昌国・559年 1980年新疆ウイグル自治区出土 トルファン博物館
一級文物「菩薩坐像」 唐・7~8世紀 2000年河南省洛陽市出土 龍門石窟研究院

 中国国内27カ所の博物館・研究機関よりお貸し出しいただいた200点近い作品のうち、紙面でお伝えできるのはごく一部である。わが国の国宝に相当する国家一級文物も、44点を数える。その全容は、この冬の京都でお確かめいただきたい。

INFORMATION

世界遺産 大シルクロード展

<会 期>23日(土・祝)~2025年2月2日(日)。月曜と12月28日~1月3日休館(ただし、1月13日は開館し、翌日休館)。入場は10時~17時半(金曜は19時まで)
<会 場>京都文化博物館(京都市中京区三条高倉、電話075・222・0888)
<入場料>一般1600(1400)円▽大高生1000(800)円▽中小生500(300)円。カッコ内は前売り、20人以上の団体料金。前売り券は、11月22日まで公式オンラインチケット(同館サイト内)、ローソンチケットなどで販売
※展覧会の詳細は同館サイトをご覧ください。

主  催:京都府、京都文化博物館、中国文物交流中心、毎日新聞社、京都新聞、MBSテレビ
共  催:京都市
後  援:外務省、中国人民対外友好協会、中国大使館、(公社)京都府観光連盟、(公社)京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都
企画協力:黄山美術社
企  画:東京富士美術館

2024年11月19日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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