埴輪の王子「はに丸」とお供の馬「ひんべえ」に挟まれて、ハニワ「踊る人」のポーズをとるみうらさん=内藤絵美撮影

 東京国立近代美術館(東京・竹橋)で開催中の「ハニワと土偶の近代」展(毎日新聞社など主催)は、明治以降に起こった数々のハニワ・土偶ブームを美術作品などから照らす異色の展覧会だ。出土遺物に夢中になった先人たちは、各時代で彫刻や前衛絵画や日本画のモチーフとしてきた。イラストレーター、みうらじゅんさんも、その一人。ゆるいハニワのキャラクターが登場する漫画「ハニーに首ったけ」(河出書房新社、1986年)をかつて発表したみうらさんと、展覧会を歩いた。

 「へえ、ここから!」。展覧会の冒頭、1枚の写真を見てみうらさんが驚く。

 79~80年、地下収蔵庫新設工事に伴い、まさにこの場所で発掘調査があり、たくさんの遺物が出土した。「縄文から江戸まで、人々の暮らしがここに眠っていたんですよ」。主任研究員の花井久穂さんが説明すると、みうらさんがうなずいた。

蓑虫山人「埴輪群像図」 1877~86年ごろ 弘前大学北日本考古学研究センター

 〝土のなかの収蔵庫〟から出てきた歴史の証人に人々は魅せられる。ミノムシのように生活道具一式を背負って諸国を放浪した蓑虫山人(みのむしさんじん)(1836~1900年)は、自分で集めた土偶や土器を想像上でディスプレーして中国文人画ふうに描いてみせた。古いものを愛し、収集する「好古家」が多くいた時代。

 「いつの時代もマニアがいますからね。そりゃコレクションを見せたくて仕方がないだろうし、絵で表現する人も当然、いるでしょうね」と、みうらさん。同じく蓑虫山人の「埴輪(はにわ)群像図」には、困り顔やニコニコ顔のハニワがたくさん。明治の初めごろの作品なのに、どこか「ハニーに首ったけ」と共通する趣がある。

鹿のTシャツを着て、鹿を担ぐ森山朝光「陽に浴びて」(茨城県近代美術館)のそばに立つみうらさん=内藤絵美撮影

 「そういえば」と、振り返る。「僕が『ゆるキャラ』という概念を思い付いたのは、『はに丸』と『ピーポくん』(警視庁のキャラクター)が大きかったと思います」。「ゆるキャラ」の名づけ親であるみうらさんは、80年代にNHK教育で放送された「おーい!はに丸」に早くから注目していた。動くたびに鳴る着ぐるみのきしみ、ハニワにしては大きすぎるサイズ。録画して繰り返し見た。

 それから間もなく、訪れた宮崎の土産物屋で「ハニワ大安売り」の文字を目にした。段ボール箱に、傷もののハニワが無造作に入れられていた。「そのとき、ハニワが横倒しになっているところを初めて見てね、それでハニワのハニーがゴロゴロ転がりながら学校へ行く連載漫画を始めたんです」

 戦時下では、スポーツ大会のメダルのデザインになるなど、ハニワのイメージは広く浸透した。仏教伝来以前の「素朴な日本の姿」としてハニワの美が語られるようになり、「万世一系」を象徴する物語にも組み込まれた。

後藤清一「玉」 1944年 茨城県近代美術館
後藤清一「玉」 1949年 茨城県近代美術館

 一方、前衛絵画を中心に表現の自由が奪われるなか、画家や彫刻家たちはハニワを利用して自らの表現を試みた。みうらさんが目に留めたのは、後藤清一の女性像「玉」(44年)。女人ハニワの衣装や装飾品を参考にしたもので、丸みを帯びた細身の体に服がぴったりと張り付いている。花井さんが「ヌードがダメなのでハニワに寄せているんです。金属供出の時代なので、ブロンズ像が作れなくて漆と布を用いました」と説明すると、仏像ファンのみうらさんは「へえー、脱活乾漆像じゃないですか!」とうなずく。

 ちなみに後藤は、戦後にも同じように膝をついたポーズの女性像「玉」を作っている。今度はヌードでブロンズ製。古代オリエント的雰囲気をまとい、「ハニワ風の乾漆像がブロンズとなって、エジプトに転生したかのようである」。

 戦意高揚にも用いられたハニワは、戦後も生き延びた。戦後復興の下、発掘現場が各地に現れる。さらに彫刻家イサム・ノグチらによってハニワ美に再び光が当たり、前衛画家たちもハニワや土偶、土器などをこぞってモチーフに取り入れ、国際性をまとい始めた。

 みうらさんもハニワ・土偶ブームを体験した。「実家にもありましたよ……」。和室にカーペットを敷いて洋風に仕立てた応接室には、世界文学全集と共に土偶のレプリカが飾ってあった。「それは、確かトーテムポールの置物のそばにあった――」。昭和の応接室にも、前衛画家たちの絵のなかにも、和洋折衷の哀愁を見いだす。

 小学生のころ、百貨店でハニワ展を見た記憶もある。気になって、地元紙の展覧会記事をスクラップした。ハニワに差す影が魅力でもあったのだと、後年「はに丸」を見て気づいた。「ハニワは、副葬品として埋められたという〝つらい過去〟がある。しかし、子供番組ではとても楽しそうにしていたのが印象的でねえ」と、しみじみ。

 昭和の終わりには、特撮映画や漫画などサブカルチャーにもハニワや土偶、土器が相次いで登場するようになる。みうらさんの「ハニーに首ったけ」もたくさんの漫画本と共に展示されている。

みうらさんの著書をはじめ、ハニワや土偶が登場する漫画なども展示している (C)MUSEUMMAN

 同館主任研究員の成相肇さんによると、ハニワは善、縄文は悪のイメージで語られる傾向が強いという。「ハニワは日本の民族的伝統に連なり、縄文の遺物はその系譜に属さない『野蛮』な人々の産物であるという明治期の受け止め方は、サブカルチャーを通じてこそ温存されているともいえる」。

 社会が変われば、出土遺物に向ける視線も変わる。今の私たちは、どんなふうに眺めるのだろう。

 みうらさんは言う。「時代によって新しい解釈が加わっていったことが面白いですよね。ハニワの造形はシンプルなので、いろんな想像と色が重ねられるのでしょう。自分の価値観や感じたことが問われる形態をしていると言ってもいい。どう捉えるかという意味では、仏像より随分のりしろがありますからね」

PROFILE:

みうらじゅん(みうら・じゅん)さん

イラストレーター、エッセイスト。1958年、京都市生まれ。80年、武蔵野美術大在学中に漫画家デビュー。「『ない仕事』の作り方」「マイ仏教」など著書多数。今年は「美術館『えき』KYOTO」で「マイブームの全貌展」を開催した。

INFORMATION

ハニワと土偶の近代

■会期 12月22日(日)まで。月曜(11月4日除く)と11月5日(火)は休館。入館は午前10時~午後4時半。金・土曜は午後7時半まで。会期中、一部展示替えあり
■会場 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3、地下鉄東西線・竹橋駅下車)
■観覧料 一般1800(1600)円、大学生1200(1000)円、高校生700(500)円、中学生以下無料※かっこ内は20人以上の団体料金
■問い合わせ 050・5541・8600(ハローダイヤル)
※展覧会の最新情報は、公式サイトでご確認ください。

主催 毎日新聞社、東京国立近代美術館、NHK、NHKプロモーション
協賛 JR東日本、光村印刷

2024年11月1日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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