
イギリスの生活文化に大きな変化をもたらし、デザインブームの火付け役ともなったデザイナー、テレンス・コンラン卿(きょう)(1931~2020年)。その人物像に迫る日本初の展覧会「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」が東京ステーションギャラリーで開かれている。来年1月5日まで。
イギリスに生まれたコンランは第二次世界大戦後ほどなく、10代でテキスタイルや食器のパターンデザイナーとして活動を始めた。64年にはキッチンツールから家具までさまざまな生活用品を扱う「ハビタ」1号店をロンドンに開く。国際的にチェーン化して成功を収めると、73年には今でいうセレクトショップの先駆けである「ザ・コンランショップ」を開店。暮らしをトータルで提案する仕組みは商品の選び方、見せ方、売り方、すべてが画期的で、世界のデザイン市場を一変させたといわれる。

50年代に若きコンランがデザインした食器やテキスタイルの色遣いやポップな柄は洗練され、少しも古さを感じさせない。椅子や棚などの家具も、個性的でありながらも決して派手ではなく、いかにも使い心地がよさそうで「上質」という言葉がよく似合う。展示空間がインテリアショップふうにつくられているのも見る側には楽しい。
ガラスケースに入れられ、絵画のように壁を飾るハビタのショッピングバッグは、今持ち歩いてもおしゃれに見えるし、69年からつくられキオスクでも売られるほどの販売数を誇ったというカタログは、現代のインテリア雑誌と遜色ない。当時ハビタがどれほど〝新しい〟店であり、なぜ多くの人々の心をつかんだのか、よく分かる。

コンランは実業家としての才にもたけており、家具製造や都市開発、書籍出版、レストランといった多岐にわたる事業を展開した。本展はその業績を八つに分けて紹介。レストランで使われていた灰皿やマッチ、メニュー、インスピレーションの源でもあった愛用品、著書、写真や映像など300点以上の資料や作品、影響を受けた人々のインタビューや残した言葉から彼の哲学を浮かび上がらせる。
コンランは「Plain,Simple,Useful(無駄なく、簡素、機能的)」なデザインが生活の質を向上させると信じ、デザインを取り入れた暮らし方を提案した。キュレーターの泉川真紀さんは「生活の中でデザインがどういう意味を持つのかを考えることで、日々の暮らしが少し楽しくなるということを感じ取っていただけたらうれしい」と話す。
2024年10月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載