18世紀中頃のヨーロッパでは、ポンペイ遺跡などから発見された品々やその歴史が人々の関心を呼び、それまで流行していた貴族趣味から、再び古代ギリシャ・ローマ時代の美術様式に回帰する動きが生まれた。
ガラス工芸の分野では、古代ローマ帝国崩壊とともに失われたガラス技法の再現が試みられ、1876年にはイギリスのジョン・ノースウッドが、1世紀のカメオ・グラスの名品「ポートランドの壺」の複製に成功した。古代のカメオ・グラスは全て手彫りで制作していたため、莫大な時間と労力が費やされていた。しかし19世紀後半では、手彫りに加え、機械によるホイール・エングレービングと酸による腐食を併用して制作するようになっていたため、コストを抑えて古代と同様の作品を多数生み出すことが可能となった。この「カメオ・グラス・チューリップ文香水瓶」は、先述のノースウッドの弟子であるウッダル兄弟が携わり、クリスタルガラスのカットやカメオ彫り技法を得意としたトーマス・ウェッブ&サンズ社製の香水瓶である。アール・ヌーボーの流行期に制作されたものの一つと考えられ、黄緑色のガラス地に被(き)せた白色ガラスを削り、チューリップの花びらや葉を繊細に表現している。
INFORMATION
特別企画展「香りの装い~香水瓶をめぐる軌跡~」
<会 期>2025年1月13日(月・祝)まで。午前10時~午後5時半(入館は同5時まで)。会期中無休
<会 場>箱根ガラスの森美術館(箱根町仙石原 電話0460・86・3111 https://www.hakone-garasunomori)
<入館料>一般1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円
主 催:箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社
後 援:箱根町
協 力:箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ
特別協力:海の見える杜美術館、高砂香料工業
2024年10月11日 毎日新聞・地方版 掲載