北九州市立美術館本館(戸畑区西鞘ケ谷町)で、開館50周年を記念する「大コレクション展―あの時、この場所で。―」が開かれている。約8000点の所蔵品の中から選んだ絵画、彫刻、写真、版画など205点で構成。1階会場に加え、普段は常設展示スペースの3階会場も使った作品の豪華、かつ多彩なラインアップに同館の特色が集約されている。
■主軸の近現代美術と浮世絵
北九州市立美術館は1974年に開館し、九州・山口の公立美術館の中では後発の福岡市美術館(79年開館)と共に主導的役割を担ってきた。本展の展示作は同館の学芸員たちが1000点以上の作品をピックアップし、議論を重ねて最終的に絞り込んだものだ。最初に来場者を出迎えてくれるのは、福岡県出身の早世の洋画家、青柳喜兵衛が手がけた油彩画「天翔ける神々」(37年)。開館前の60年度に購入した。
高値での購入が話題になった印象派の油彩画〝御三家〟も公開されている。エドガー・ドガ「マネとマネ夫人像」(1868~69年、74年度購入・1億4000万円)、ピエール=オーギュスト・ルノワール「麦わら帽子を被(かぶ)った女」(1880年、99年度同・2億4750万円)、クロード・モネ「睡蓮(すいれん)、柳の反影」(1916~19年、93年度同・3億9000万円)。いずれも記念碑的作品のため、同館=印象派のイメージを抱きがちだが、油彩画に限れば、印象派の作品は意外にもこの3点しかない。
日本と欧米の近現代美術をコレクションの主軸としながら、一括寄贈された作品をベースに約1300点の浮世絵を所蔵している点が、全国的にも例を見ない同館の特徴として挙げられる。本展では、世界で最も有名な日本人絵師、葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(1831~34年)など19点がそろう。
■100億円価値のバスキア
同館は先見の明もある。後に世界的作家となる草間彌生、福岡県出身の野見山暁治(以上、文化勲章受章)、菊畑茂久馬(毎日芸術賞受賞)らの大規模回顧展を全国に先駆けて開いたのは同館。本展の呼び物の一つで、84年度に375万円で購入したジャン=ミシェル・バスキアの絵画「消防士」(83年)は近年のオークションの相場に照らし合わせれば、100億円以上の価値がある。88年度に200万円でコレクションに加わった草間のアクリル画「南瓜(かぼちゃ)」(81年)も1億円は下らないだろう。
会場を巡り、米国の画家が70~80年代に手がけた絵画に優品が多い印象を受けた。代表例として、新表現主義の旗手、ジュリアン・シュナーベルの油彩画「何と輝かしき嘴(くちばし)」(84年)を推したい。国内に目を転じると、近年、国際的に再評価が進む具体美術協会のメンバーの作品が充実している。
■福岡の現役作家も網羅
本展を通し、同館がヤノベケンジ、故・國府理、クワクボリョウタら、気鋭の表現者による現代アート作品を収集し続けている事実を改めて認識させられた。地元福岡の現役組で作品が紹介されているのは、森山安英、川原田徹、築城則子、江上計太ら。個人的には、北九州で描き続けてきた川原田の油彩画「さざえ浄土」(80年)と、海老原喜之助の代表作にして、戦後日本の再出発を象徴する油彩画「船を造る人」(54年)が隣り合って展示されていることに感動した。
このほかの出展作家は、アンリ・マティス、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ルオー、岸田劉生、萬鐵五郎、東山魁夷、浜田知明ら。9月7日から同館のホームページで所蔵品検索ができるようになった。会場に足を延ばし、作品の魅力や迫力を体感してほしい。
11月10日まで。北九州市立美術館本館(093・882・7777)。
2024年10月4日 毎日新聞・地方版 掲載